Q.介護に尽くした長男の妻も遺産がもらえると聞きましたが本当ですか?
■2019年7月1日から「特別寄与料」制度が始まりました
はい、本当です。
特別寄与料といって、相続人ではなくとも療養看護に努めた人に、遺産を請求する権利が認められました。
最近は介護保険を利用したり、義両親と同居しない核家族が増えてきたため、ケースとしては少なくなった印象ですが、よく長男の妻が夫の親の介護に務めるケースが見られました。
これまでの法律では、そのような方の恩に報いたいと思えば、遺言等で明記しない限り、「相続人でないから」という理由だけで、1円の請求権もなかったのですが、今後は請求権が認められることになりました。
※例えば「ヨシ子さん、いつもありがとうね。私が死んだら遺産から●●●万円もらっていいからね」というふうに口で言ってるだけでは遺言になりません。
■この制度で遺言は不要になる?
では、この制度により、遺言を作る必要はなくなったのでしょうか?
答えは「NO」です。
それでも遺言を作るべきだ、と私は思っています。
理由は2つです。
■特別寄与料は、手を挙げて初めてもらえる
理由の1つめ。
それは特別寄与料は黙っていても転がってくるものではなく、先ほどの例で言うヨシ子さんが手を挙げて初めて認められる権利だということです。
どういうことかというと、例えばあなたが亡くなって、長男と二男が遺産分割の話をしているとします。
そこに長男の妻がバっとふすまを開けて、「ちょっと待った!私、お義母さんの世話をしたんだから少しはちょうだいよ!」と言って割り込んでいくようなイメージです。
どうですか?ヨシ子さんが控えめな性格だったら、できない気がします。
■裁判例の蓄積がないため、どう判断されるか不透明
理由の2つめ。それはこの制度が始まったばかりなので、裁判例の蓄積がない、ということです。
例えば条文には、無償で療養看護した者、となっています。
民法1050条(特別の寄与)
1項 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(略)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる
では、この無償ってどこまでですか?ってことです。
例えば5000円札を渡して「ヨシ子さん、おむつ買って来て。おつりは好きに使っていいから」とお願いしたとします。
いくらかもらうことになりますよね?
それでもう無償じゃなくなるんですか?
月に1回まではOKとしましょう。
では5回は?
10回は?
この辺の線引きというのは、この制度に基づいた裁判例が積み重なることではっきりしてくるのですが、それがまだない、ということです。
ですので、ヨシ子さんの恩に報いたければ遺言を書くのが無難、ということなんです。