Q 亡夫とは事実婚でした。生前も「俺が死んだら全て君に」と言っていたので相続できますよね?
■家族のあり方の多様化と法律
事実婚のことを、内縁とも言います。
厳密には、内縁は婚姻届をいずれ出す意思のある「夫婦」、事実婚は主体的に婚姻届を出さないことを選んだ「夫婦」であって、違うものである、との考え方もあるようですが、このページでは同じものとして説明します。
家族のあり方は多様化しています。
本件のように、婚姻届をあえて出さない事実婚も、本人達が話し合い、納得してしていることであれば、否定されるべきではないでしょう。
(ちなみに婚姻届を出して夫婦となることを法律婚といいます)
ですが残念ながら、法律はそれに追いついていません。
事実婚の夫婦については、離婚の際の財産分与※1や、不当な破棄に対する慰謝料請求※2については判例で認められていますが、相続については認められていないのが実情です。
※1 民法768条、大阪高決昭和40年7月6日等
※2 最判昭和33年4月11日
■事実婚における相続人は?
では事実婚で、夫が亡くなった場合の相続人は誰になるのでしょう?
次の通りです。
1.子どもがいる場合
そのお子さんが相続人となります。
前妻との子も含まれます。
2.子どもがいないが、父母・祖父母等が存命の場合
父母の双方または一方が存命→存命の方が相続人
父母の双方が死亡しているが、祖父母の双方または一方が存命→存命の方が相続人
3.子ども、父母・祖父母等がいないが、兄弟姉妹・甥姪が存命の場合
兄弟姉妹のうち、存命の方が相続人
死亡した兄弟姉妹に子(亡夫からすると甥姪)があればその方が相続人
■特別縁故者として認められるまでのハードル
では、上記のように子も親も兄弟姉妹もいない方が亡くなった場合、どうなるのでしょうか?
「確かそういう場合は、内縁の妻が遺産をもらえるんじゃなかったかしら?」
これは特別縁故者といって、亡夫に相続人がいない場合、「生計を同じくしていた者」等にとして家庭裁判所が認めれば、遺産を引き継ぐことができます(民法958条の3条1項)。
「何だ、じゃあ私が該当するわね。早速申し立てようかしら」
と思ったあなた。
残念ながら特別縁故者として認められるまでのハードルはめちゃくちゃ高いです。
次の図をご覧ください。
最低でも13ヶ月かかるのがおわかりいただけるでしょうか?
しかも最初のきっかけとなる相続財産管理人選任の申立の時点で、家庭裁判所に20~100万円の予納金を納めなければなりません。
生前、亡夫が「俺が死んだら全て君に」と言っていた、とのことですが、残念ながらそれは遺言としての効力を持ちません。
■家は追い出されてしまうのか?
話を亡夫に相続人がいた場合に戻します。
ここでこんな疑問が生まれそうです。
「もし亡夫の持ち家を遺産分割で引き継いた相続人が意地悪な人だったら、家を追い出されてしまうのではないか?」
これについては、「家屋の所有権を相続した者が家屋の居住者である被相続人の内縁配偶者に対して明渡しの請求をすることは権利の濫用」(最判昭和39年10月13日)との裁判例があり、一定の保護が図られています。
しかし内縁の妻が当然に所有権を主張できるわけではなく、残念ながら保護としては弱いものです。
■事前に問題を回避するには
このように、事実婚は相続に関しては全般的に保護が弱いです。
法律が変わればいいのでしょうが、今日・明日にそれは望めません。
ですのでもしこれをご覧の事実婚夫婦で、まだ二人ともご存命の場合は、遺言をきちんと書いて相手に「遺贈」という形で遺産を承継させる準備をすることを強くお勧めします。