Q 自筆証書遺言が法務局で保管できるようになったので、公正証書遺言なんて無駄ですよね?
■一長一短なので一概に言えない
2020年7月10日、法務局での自筆証書遺言保管制度が始まりました。
私は制度開始初日に、自分自身の遺言を保管申請し、北海道新聞社から取材を受けました。
自筆証書遺言を保管するメリットとして一般的に挙げられているのは、次の点です。
1.紛失や改ざんが防止できる
(これまでは自己責任で保管だったため、これが問題でした)
2.遺言者が亡くなった後、家庭裁判所での検認が不要になる
3.保管時に申請すれば、遺言者が亡くなった後、遺言執行者等に法務局から通知が行く
4.費用が安い(3900円)
これだけを見ると、
「あれ?じゃあもう公正証書遺言って要らないのでは?高いし」
と思えてきます。
しかしこれは早計です。
公正証書遺言にはまだメリットがあります。
一長一短なので、どちらが必要で、どちらが不要というものでもありません。
■遺言者死亡時の手続の簡易性は公正証書遺言に軍配
上記に挙げたメリットのうち、2の「検認が不要になる」というのは事実です(遺言書保管法11条・民法1004条1項)。
ただし「遺言者死亡時の手続の簡易になる」とイコールではありません。
なぜでしょう?
それは遺言書情報証明書(=遺言書の写し)を法務局に発行してもらう時に、遺言者の出生~死亡の戸籍等が必要になるからです。
これは家裁に検認を申し立てる際も同様で、手間がほとんど変わっていないのがおわかりでしょうか?
一方、公正証書遺言を用いて、例えば不動産の相続登記をする際は、遺言者が亡くなったことがわかる戸籍と、その不動産を相続する人の戸籍があれば十分です。
■字が書けない、移動ができない方は…
高齢等、何らかの事情で、字が書けない方は、自筆証書遺言事自体ができません。
その点、公正証書は公証人が書きますので、問題ありません。
もう一つ、公正証書遺言の利点として、公証人が出張してくれる、というものがあります。
一方、自筆証書遺言の保管申請は、必ず本人が法務局に出頭しなければなりません。
もちろん公証人が出張する場合は、料金が高くなってしまいます。
ですが、何らかの事情で移動できない方は、公証人に出張してもらうか、紛失・改ざんのリスクを犯して保管しない自筆証証書を作るか、どちらかになります。
■「厳格な手続を経た」という心理的効果
最後に挙げるのは、法律的な話ではありません。
ですが「厳格な手続を経た」という心理的効果は見逃せないと思います。
これは特に、遺言の内容や成否に異議を唱えそうな推定相続人がいる場合に有効です。
実は法律的には、自筆証書も公正証書も、遺言であることに変わりはありません。
ですが、公正証書の方は、
1.公証人という公の立場の人が作成している
2.証人2名の面前で遺言している
という厳格な手続を経ていることから、「異議を唱えても無駄かもしれない」という心理が働きやすいということは言えます。
■どちらが良いかはケースバイケース
このように、どちらが良いかはケースバイケースです。
目先の手数料だけでなく、総合的に判断するためにも、遺言の際は司法書士に相談されることをお勧めします。