Q 長男が亡夫の口座から預金を無断で引き出していました。どうしたらいいでしょう?
■返還させるか、他の遺産をもらうか
亡夫Aの遺産が、不動産1000万円のと預貯金600万円、相続人は妻B、長男Cとします。
この場合、法定相続分はBC各2分の1です。
長男Cは、生前から亡夫Aに頼まれ、金銭管理していたため、預金口座の暗証番号を知っていました。
そこで長男CはAの死後、口座が凍結される前に少しずつお金を引き出し、残高がゼロになっていました。
この場合、妻Bは、長男Cに対し、どのようなことができるでしょうか?
2019年7月1日施行の改正民法では、このように相続発生後、遺産分割前に相続人の一人が遺産を処分してしまった場合でも、処分された遺産があるものとして遺産分割を進めることができます(民法906条の2)。
つまり不動産1000万円+預貯金600万円=計1600万円の遺産が「あるもの」として、遺産分割を進めることができるのです。
したがって、妻Bは、
・預貯金600万円を相続するから引き出したものを返しなさい
・長男Cが預貯金を相続したのだから不動産は私のもの
など、預貯金が「あるもの」として長男Cに主張しつつ、遺産分割が可能です。
ちなみに施行前は、家庭裁判所の遺産分割調停に持ち込んでも、引き出された預貯金600万円は、「ないもの」として処理されていました。
■予防策は?
以上が改正の概要ですが、残念ながらこれで万事解決ではありません。
例えば上記の事例で、妻Bも預貯金の相続を希望しているのに、長男Cが預金を無断で引き出した上、全て使ってしまったらどうなるでしょうか?
請求する権利はあっても、その相手に返還する資力がなければ「絵に描いた餅」。
残念ながら、「無い袖は振れない」というのが現実です。
ですので予防策としては、誰かが亡くなった場合、相続人としてできることは、すぐに銀行に死亡の届けをし、口座を「凍結」することです。
これは相続人が複数いても、単独ですることが可能です。
特に事例のように、一人が通帳を管理していたケースでは、無断引出が容易ですので、予防策を施すことをお勧めします。