北広島にこやか遺言相続相談室

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Q 相続人の一部が行方不明ですが不動産を売ってしまいたいです。どうしたらいいですか?

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■法改正により相続人に行方不明者がいても不動産が売れるようになります

こちらのページで解説している通り、法律はたとえ所在不明で意思が確認できない人であっても、原則としてその権利を保護しようと考えます。
これは誰かが亡くなり、相続が発生して法定相続分による共有状態になった場合も同様。
所在不明だからと言って、その人の持分を含めて勝手に売ったり、買い取ったりはできないうようになっているのです。

ですが現行法(2021年11月現在)では、このことがネックとなって、長期間、遺産分割やその後の土地利用・売却が進まず、所有者不明土地が増える一因となっていました。
ですがこうした現状を政府が重く見たため、このたび民法が改正(2023年4月1日施行)、共有状態の解消がよりスムーズに進められるようになります。

これまで相続人の一部が所在不明だったために、相続した不動産の利用・売却が進められなかった方には朗報と言えるでしょう。
ただし、これも法律に則って行うことです。
いかに正しい手順を示しますので、きちんと知った上で活用しましょう。

■事例設定

まず話をわかりやすくするために事例を設定します。
Aさんはある日、自分が相続人であるにもかかわらず、10年以上、遺産分割も相続登記もされず放置されている土地があることを知りました。
Aさんは戸籍やその附票を辿った結果、他にも相続人BCがいることがわかりました。
法定相続分はAさん10分の5、B10分の4、C10分の1です。

Bさんとは何とか連絡を取れましたが、Cさんは住民票上の住所におらず、所在不明。
Aさんはひとまず、Bさんと話し合いました。
2人ともマイホームがあるので、この土地を利用する必要性はありません。
使わない土地を持っていても固定資産税がかかるだけだし、草木が伸びたり、法地が崩れたりすれば隣地に迷惑をかけるだけなので、さっさと売却してしまいたいと考えています。

さあ、どうしたらいいでしょうか?
遺産分割は相続人全員で行わなければ無効ですから、Cさんを抜きにして遺産分割はできません。
もちろん法律上は、BCそれぞれ持分だけを第三者に売ることは可能ですが、現実にはそんな中途半端な権利をまともな市場価格で買う人はいません。

現行法では、Cさんのため家裁に不在者財産管理人選任を申立て、その管理人がCさんに代わって遺産分割を行う等の方法があります。
ただしこの申立てには20万~100万円の予納金が必要とされており、手続きもかなり面倒です。
詳しくはこちらのページをご参照ください。

ところが改正法では、不在者財産管理人を申し立てなくても解決できるようになったんです。方法は2つあります。
1.裁判所の許可を得て、AさんがCさんの持分を取得してから第三者に売る方法
2.裁判所の許可を得て、AさんがCさんの持分を売る権限を付与されてから第三者に売る方法です。

■不明者の持分取得

まず1つめの方法。
裁判所の許可を得て、AさんがCさんの持分を取得する方法(民法第262条の2)を解説します。
手順は次の通りです。

1.不動産所在地の地裁に申立
まずAさんが不動産の所在地の地方裁判所に、申立てを行います。
その際、Cさんが所在不明であることの証拠を出します。
所在不明であることの証拠とは具体的にどのようなものでしょうか?
これについては、裁判所が事案に応じて認定することになります。
(法制審議会民法・不動産登記法部会資料56p9・同30p14)
ただ少なくとも戸籍やその付票をたどって住民票の所在地を調べるところまでは間違いなく必要と思われます。
「あの人、行方不明だよと親戚が言っていた」という伝聞程度ではまず認められないでしょう。

2.異議届出期間等の公告
申し立てが認められると、3ヶ月以上の期間を設けて異議届出期間等の公告が行われます。
所在不明者でも一応は権利を保護しなければなりませんので、3ヶ月ほどは異議を述べられるようにするわけですね。
(もちろん経験上、所在不明の方から異議を出されることはまずないと思います)
その他、登記簿上の共有者つまりBさんへの通知も行われます。

3.取得持分の時価相当額を供託
取得する持分の時価相当額について、裁判所が決めた金銭を供託することになります。
金額の算定については、後で詳しく解説します。
供託というのは、様々な理由で国にお金を預ける仕組みで、窓口は我々司法書士が登記を出すことでお馴染みの法務局です。
なぜ供託をするのか?
それは万が一、Cさんが後日、姿を現した場合、この供託金をCさんが受け取ることができようにしておくためです。
こうやって一応、Cさんの権利は保護を図るわけですね。

4.C→Aに持分移転・登記
供託金を納めましたら、Cさんの持分がAさんのものになります。
法務局で名義変更(登記)して終了となります。
※この前提としてABCの法定相続分による相続登記が必要になると予想されます。詳細は施行直前に法務省から見解が発表されると思われます。

この後は、通常通り、不動産業者を通じるなどして買主を見つけ、売却します。

■不明者の持分売却権限付与

AさんがCさんの持分を取得する方法を聞いてこう思った方もいるのではないでしょうか?

①亡くなった方(被相続人)からABC
②裁判所を通してC→A
③そしてABから買主に売却
→3回も名義変更しなきゃいけないって遠回りでは?
はい、確かにそうですね。

そこでもう1つ。
Cの持分売却権限をAに与えて、ABCから直接、買主に売るという方法があります(民法第262条の3)。
手順は次の通りです。
(1~3は持分取得とほぼ同じです)

1.不動産所在地の地裁に申立
2.異議届出期間等の公告(3ヶ月以上)
3.取得持分の時価相当額を供託
4.C持分売却権限がAに付与
供託が終わりましたら、Cさんの持分を売却する権限がAさんに付与されます。
この権限は原則2ヶ月です。
ただし延長することは可能です。

以上が持分売却権限付与の流れです。
この制度の使い方としては、次の2つがあると思います。
1.買主が見つかっていないうちに申し立てを行い、買主が見つかるまで売却権限の延長を繰り返す。
2.引き渡しまでに3~4ヶ月かかることを了承してくれる買主を見つけてから、申し立てを行う

■両制度の比較と供託金の額

さて2つの制度を紹介しましたが、それぞれどんなメリット・デメリットはあるのでしょうか?

1.持分の時価相当額が持ち出し
両方に共通するデメリットとしては、土地を売却して売買代金が入ってくる前に、AさんがCさんの持分を得たり売却権限を得るために、相当額を供託をしなければならない、いわば持ち出しになることが挙げられます。
具体的には次のような算定で金額を出すと予想されます
(民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明p37・39)

例:土地の市場価格が1000万円の場合
1000万円×C持分10分の1=約100万円

ただし持分取得の方では、不動産鑑定上、共有減額というのが適用され、2~3割減額になる可能性があります。
つまりこのケースだと、次のようになります。

1000万円×C持分10分の1-共有減額2~3割=約70万~80万円

もちろん無事に売れれば、供託した分は売買代金から回収できますが、それでも一時的には持ち出しになってしまいます。
また今回設定した事例ではは不明者の持分が10分の1ですからそこまで負担感はないかもしれませんが、例えばこれが10分の9だとする?
また市場価格が1億円だとすると?
と考えると負担感は大きいかもしれませんね。

2.売却・方針転換のしやすさ
次に持分取得の方は、AさんがCさんの持分を取得した後、ゆっくり買主を探すことができますし、万が一売れなかった場合でも、駐車場に転用するなどの方針転換は比較的簡単です。ですが持分売却権限付与の方では、買主が見つかるまで権限の延長を2ヶ月おきにしなければならなくなるおそれもあります。
また引き渡しまでに時間がかかることを敬遠して、買主がつきづらいおそれもあるかもしれません。

3.相続開始後10年経過必要
最後にこれも2つの制度共通なのですが、実はこの制度が使えるのは、相続開始から10年以上経ってからなんです民法第262条の2第3項、第262条の3第2項)。
つまり国としては相続が開始してから10年は、何とか相続人の間で話をつける努力をしてくれ、ということなんです。
というのは、民法の考え方として、遺産分割は「各相続人の年齢、職業、心身の状態および生活の状況その他一切の事情を考慮して」行うこと、とされているところ(民法第906条)、この制度って裁判所を挟むとはいえ、ある程度機械的に無断でやってしまうからなんですよね。
そこはやはり無制限に認めるわけにいかない、ということなんです(法制審議会民法・不動産登記法部会資料42p2)。

いかがでしたでしょうか?
ところで「相続開始から10年経っていないけど何らかの対策がしたい」という方もいらっしゃるかも知れません。
実際、私の経験上、相談に来られる方は「今すぐ何らかの対策をしたい」という方が多いです。
これについては別のページでご説明します。
なお、今ご存命の方で、既に相続人になるであろう人の中に所在不明者がいる方については、ぜひ元気なうちに、遺言、家族信託等の生前にできる対策を行ってください。
今回の法改正で共有解消がやりやすくなるとはいえ、やはり生前の相続対策に勝る方法はありません。

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