北広島にこやか遺言相続相談室

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Q 隣の空き地の擁壁を直してほしいのに相続登記未了で所有者がわかりません。どうしたらいいですか?

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■空き地の所有者がわからない!

あなたの家の隣の土地は、長年空き地です。
しかし管理が行き届いておらず、草木は生え放題。
害獣・害虫が寄ってきたり、不法投棄の温床となっています。
さらには法面の擁壁も保全されておらず、あなたの土地に崩れ落ちてきそうです。
さあどうしましょう?

もちろん地主、つまり土地の所有者と話し合うのが第一です。
そこであなたは法務局で登記簿を取り、地主が誰であるか確認しました。

ところが!
登記簿上の所有者は、何十年も前にその土地を購入した方で、どう考えても既に亡くなっています。
ですが、相続登記がされていません。
「所有者がわからない!誰に話をつけたらいいんだ?!」

実は日本では今、九州と同じくらいの面積の土地が既に所有者不明で、今後もどんどん増える見込みです。
あなたやあなたの子孫に、いつこのような困った事態が降りかかるかわからない、ということなんです。
私も司法書士として日々、色々な相談を受けますが、長年相続登記がされていない不動産の相談はよく受けます。
このような状況の場合、何をすべきなのでしょうか?
解説します。

■他人様の戸籍を取れる?

さて、冒頭の事例の解決手順ですが、何はともあれ、登記簿上の名義人の相続人を調査して確定しなければなりません。
名義人が亡くなっている以上、相続人と交渉するしかないですからね。
このため、まずは登記簿上の名義人の戸籍を辿っていきます。
「え?他人様の戸籍になんて、第三者が取れるの?」
はい、取れます。
今回の事例のように、ある程度の可能性の高さで自分の土地に損害が及びそうな状況の場合には、相手にその予防を求める権利がある、されているからなんですね(物権的妨害予防請求権)。
そしてその権利の実現のために相手の戸籍を取る必要性があれば、取れることになっているんです(戸籍法第10条の2第1項第1号)。
意外でしたでしょうか?

ただし、現実には一般の個人の方がそれをやるのは難しいのではないかと思います。
というのは、やはり戸籍というのは個人情報です。
なおかつ非常にデリケートな情報です。
第三者からの交付請求に応じるか否かを判断するのは、本籍のある各自治体の窓口の判断ですが、動画の冒頭のような状況を説明し、あなたにそのような民事上の権利があることを理解してもらうのは、現実にはかなり厳しいと思われます。私の自治体の窓口でよく戸籍は取りますが、職員の法律的素養はまちまちであることを感じます。
したがって結論としては、弁護士・司法書士に依頼して取ってもらうのが現実的です。
弁護士や司法書士は、何らかの理由で相手と交渉したり、裁判所等に何らかの訴訟や申立をする依頼を受け、それに必要な範囲ならば、という限定つきですが、第三者の戸籍を取れることになっているからです(戸籍法第10条の2第3項)。
※戸籍を取ることだけを依頼することはできないのでご注意ください。
その時には職務上請求書、という特別な用紙を使います。

さてあなたは司法書士に依頼し、戸籍を取ってもらいました。
その結果、相続人は全部で10人いることがわかりました。
つまりこの空き地は、この10人の共有状態となっているわけです。
このように共有者が多い状態を俗に「メガ共有」と言ったりします。
場合によっては、100人200人ということもありえます。
私もかつて、補助者時代に行政からの依頼である土地の相続人を調べたことがあります。その時は数十人の相続人でした。集めた戸籍もこのくらい分厚くなりました。
「えっ、10人もいるの?でもそれくらいなら何とかなるかな?」
そう上手く行くでしょうか?

■お金がかかる現行制度

あなたは10人に手紙を送りました。
「あなたが相続した土地の草木や擁壁を何とかしてください」と。
さてどんな結果になると思いますか?
こういう場合、経験上、結果は大きく分けて3種類です。

①戸籍調査通りの住所に手紙が届き、反応もきちん返してくれる
②戸籍調査通りの住所に手紙が届いたが、反応を返してくれない
③戸籍調査通りの住所に手紙が届かない

この事例では①が5人、②が2人、③が3人だとしましょう。

①はいいですよね。
反応を返してくれたので、交渉できます。

②もよくあります。
困りますね。
でも無理からぬところもあるんです。
ご自身の元に突然、高祖父とか大叔父とか、名前も聞いたことのない方の相続人なので連絡しました、という手紙が来たことを想像してみてください。
にわかには信じられないと思うんですよね。

私が過去に相談を受けた中には、新手の詐欺だと思って何ヶ月も無視した、という方が多いです。
中には怪しくて警察に駆け込んだ、という方もいます。
もちろん民事なので警察に言われても困ります、と追い返されたそうですが。
こうした方の対応は、後ほど説明します。

③も困ります。
所在不明なので、交渉のしようがありません。どうしたらいいのでしょう?

現在の法律では、このように所在不明の方のために、不在者財産管理人を選任する方法が考えられます。
家庭裁判所に申立てて選ばれた不在者財産管理人が、本人のために遺産分割協議に参加したり、土地の管理を行うのです。
ただしこの制度、こうした事例では非常に使いづらさが指摘されています。
なぜでしょう?
この事例のように所在不明者が3人いたとしたら、その3人それぞれのために管理人を選ばなくてはなりません。
しかも申し立てた人は、問題の空き地だけ管理してもらいたいのに、人単位で選任されるため、管理の範囲は不在者本人の他の不動産、預貯金、株式など全てに及んでしまいます。
申し立ての時に申立人が納める予納金も、20万~100万円×人数分を申立人が納めなければなりません。

「え?そんなにお金と手間がかかるなら何もできないよ」
ごもっともです。
そこで2023年4月1日から施行される改正民法では、別の制度で解決する方法が用意されました。
それが「所在者不明土地管理制度」です。
どんなものでしょうか?

■所有者不明土地管理制度とは

先ほど現行法で可能な不在者財産管理制度は、人単位、と説明しました。
したがって不明者の人数分選ばなければならないし、予納金も人数分かかる、そして申立人が管理を望んでいない隣の空き地以外の財産も管理の対象になります。
ですが、所有者不明土地管理制度の場合は、不動産単位の管理となります。
したがって、選任される管理人は1人、管理の対象も、隣の空き地のみ、となります。
予納金もそこまで高額にならないものと予想されます。
※現状では制度が始まっておらず、目安も示されていないので、具体的な金額はわかりかねますが、法務省の資料には「予納金の負担も軽減」とあります。


※1 複数土地につき同じ管理人選任の可能性有
※2 土地上の動産含む(改正民法第264条の2第2項)
 ※3 令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国
    庫帰属法のポイントp39

手続の順序を説明します。
1.利害関係人が申立
管轄は、不動産所在地の地方裁判所です
このときに、戸籍等の調査を尽くしても所在が不明であることの証拠も提出します

2.予納金納付

3.異議届出期間等を定めて公告
1ヶ月以上の異議届出期間等を定めて公告します。
これは所在不明者が自ら名乗り出ることを想定しています。
もちろん可能性はほぼゼロでしょう。

4.管理命令発令
裁判所が管理状況等に照らし、管理の必要性があると判断しましたら、所在不明者の持分を対象として所在不明者土地管理命令が発令され、空き地の登記簿にその旨の登記がされます。

5.管理人選任
そして管理人が選ばれますが、法務省の資料によると、管理人としてふさわしい者の例として、弁護士、司法書士、土地家屋調査士等、とあります。

6.管理開始
管理人による管理が始まります。
この中で、先ほど言った②の方、つまり「所在はわかっているけど返事をよこさない共有者」2名にも話をつける、ということになります。
まずは任意で話し合いを試み、それでもだめなら、共有物分割請求調停等を行うことになります。
※所有者不明土地管理人は、遺産分割に参加はできません

7.裁判所の許可を得て売却
返事をしなかった共有者と話がついたらどうなるのでしょうか?
もちろんケースバイケースの判断で土地を賃貸する等の方法もあるでしょう。
ですが、私の不動産営業をやっていた経験を踏まえましても、現実には裁判所の許可を得て、売却するのが基本になるのではないかと予想します。
なぜなら草木を刈り取り、擁壁を直す、ということになると、ある程度まとまったお金がかかります。
そうなると現実的には、その分を差し引いた安い金額で売り、新しい地主である買主にやってもらうのが手っ取り早いように思います。
もちろんこれは土地の状況や予納金の金額などによるのでケースバイケースの判断でしょう。

さて無事に売却できた場合、代金は共有持分に応じて、各共有者が取得します。
所在不明者の分は、管理人が法務局に供託します。
供託というのは、国が誰かのためにお金を預かる仕組みですね。
万が一、不明者が後でひょっこり現れた場合に備え、供託金を受け取れるようにしているわけです。

8.管理命令取消
こうして管理が終わりましたら、管理命令が取消されます。
空き地の登記簿に管理命令の登記も抹消され、管理人の職務も終了、となるわけです。

その後は、その土地を買ってくれた新しい所有者が、自分の意思で買った以上、責任を持って維持管理することが期待できる、ということになるわけです。
以上が所有者不明土地管理制度の特徴と手続の流れでした。

■建物にも使える

いかがでしょうか?
基本的にあなたは申立を弁護士・司法書士に依頼して、予納金を納めてくれれば、あとは管理人が解決してくれるのを待つだけです。
なので手続の流れを説明したんですけれども、別にこれを覚える必要はありません。
ただこの予納金が、不在者財産管理制度よりも安くなる可能性が高いので、使いやすくなる、ということです。
私もこういう問題、相談を受けるのですが、やはりこの予納金のところで皆さん断念してしまうことが多い印象です。
なのでこういう制度がある、ということを頭の片隅に置いていただければ、ということで解説しました。
いくつか補足です。

1.建物も対象
今回は話を簡略化するために、土地についてのみ解説しましたが、所有者不明建物管理制度、というのも同時に始まります。
手続の流れ等は、土地の方とほぼ同じです。
隣の空き家が倒壊してこちらに危害を及ぼす、屋根の雪がこちらに落ちてきそう、などの問題があれば、利用を検討してみてください。

2.申立できる人は他にも
今回は申立人として隣地所有者を例にしましたが、利害関係があればいいので、次のような人も該当します。

所有者不明土地管理の申立人
・共有者の1人(10人の相続人のうちの1人など)
・時効取得を主張する者
・土地を買って適切な管理をしようとする者

出典:法制審議会民法・不動産登記法部会資料43p3
衆議院法務員会議事録第6号

3.詳細は施行直前に
なにぶん、まだ始まっていない制度ですので、どのような運用になるのか、予納金がいくらくらいになるのか、実際どれくらい利用されるのか、未知数なところはあります。
細かいことは2023年4月1日の施行直前に、色々発表されるでしょう。
続報が入り次第、このホームページでもお伝えしていく予定です。

実はこのほかにも、2021年改正では、所有者不明土地をなくしたり、防いだりする制度が盛りだくさんなんですね。
国も法律を改正して、この問題を解決しようとしています。
皆さんにできることとしては、相続や隣の不動産のことで困ったことがあったら、まずは司法書士に相談して欲しいです。
意外な解決策が見つかるかも知れませんよ。

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