Q 相続土地国庫帰属制度を利用するにあたり、測量は必要ですか?
■法令上は不要だが、測量するのが望ましい
結論から言うと、「法令上は不要だが、測量するのが望ましい」という言い方になります。
相続土地国庫帰属制度(不要な土地を国に引き取ってもらう制度)においては、申請する土地と隣地の境界がわかる杭等(簡易なもので良い)を打ち、その写真の添付が必要です。
出典:法務省「相続土地国庫帰属制度のご案内」
なぜならば土地を引き取れない条件の1つとして、「境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地」(相続土地国庫帰属法第2条第3項第5号)というものがあり、これに該当しないことを確認する必要があるからです。
これを聞くと、「やっぱり測量が必要なのでは?」と思うかも知れません。
ですが、法務省が発行しているパンフレット「相続土地国庫帰属制度のご案内」19ページを見ますと、次のように書かれています。
「測量や境界確認書の提出まで求めるものではありません」
これはどういうことなのでしょうか?
これを理解するためには、「境界」には「筆界」と「所有権界」の2種類がある、ということを説明しなければなりません。
■筆界と所有権界の違い
筆界と所有権界の違いは、一言で言うと、次の通りとなります。
筆界:
1筆の土地がどこからどこまでかであるかを示すため、法務局に登記された境界
所有権界:
地主の所有権が及ぶ範囲を示した境界
言うまでもなく、筆界と所有権界は、通常は同じになります。
ただしこんな場合には違ってきます。
例えばこのようにAさん・Bさんの土地があり、筆界=所有権界の状態だとします。
Aさんが自分の土地のこの部分だけを隣地所有者のBさんに売ったとします。
この場合、所有権界は図の通り変わりますが、筆界は変わりません。
筆界と所有権界を一致させたければ、Aさんが売ったこの部分を、このように2つの土地に分筆登記した上で、
(分筆登記にはもちろん測量が必要です)
Bに売る、ということになります(もちろん通常は、所有権移転登記もします)。
このように法務局で登記しなければ変更できないのが筆界、地主間の合意で変更できるのが所有権界です。
■相続土地国庫帰属制度で求められるのは所有権界
この点、相続土地国庫帰属の承認申請において明示するよう求められているのは、所有権界の方です。
なので、法令上は、測量は不要、ということになります。
ただしケースバイケースですが、私個人はやはり、測量するのが望ましい、測量するに越したことはない、と考えます。
なぜなら本制度の利用を検討するような土地は、一般論として市場性が低く、長年、地主自身が活用どころか、見に来てもいないような土地が多いわけです。
当然手入れもされていませんので、草木が生え放題、境界標は初めから打たれていないか、過去に境界標が打たれていたとしても、破損・流出・埋没してしまっており、地主自身もどこが境界かわからないケースが多いと考えられるからです。
かと言って、誤ったところに境界標を打ち、隣地の地主とトラブルになっても困ります。
ですので、測量するのが望ましいのではないか、と考えます。