Q 遺言で遺産の分け方以外に書いておいた方が良いことはありますか?
■認知
ある男性が、婚姻関係にない女性との間に生まれた子を「この子は私の子です」と認めて市役所に届出することを「認知」と言います。
一般的には、交際相手の女性が妊娠・出産した場合、男性としては婚姻届を出して結婚するか、結婚しないまでも、認知することが多いと考えられます。
ですが何らかの事情で、婚姻届も認知届も出さない、ということがあるかも知れません。
そんな場合であっても、自分に万が一のことがあった場合には、せめて認知だけでもしたい、と希望するならば、遺言で認知をする、ということが可能です。
例えば芸能界で言いますと、ある歌舞伎俳優が、現在の妻と結婚前に交際していた女性と、未認知のお子さんがいらっしゃるという報道がありました。
その際の記者会見では
「認知もしていないが、子が大きくなったときに、本人の意見を聞いて(認知するかどうか)決める」
と答えていたそうです。
もちろんそれは当事者の意思が尊重されるべきことでしょう。
ですが問題は、子が大きくなる前に、万が一のことがあった場合です。
生前にも、遺言でも認知をせずに子の父である男性が亡くなった場合、「死後認知請求」という裁判を行うしか方法がなくなります。
この場合、男性の死亡から3年以内に、地方検察庁を相手に裁判を起こすことになります。
裁判所の管轄は、子の住所地または亡くなった父親の最後の住所です。
相当に大変な手続となるので、遺言での認知をおすすめします。
■相続廃除
「長男みたいなドラ息子には遺産は一銭たりともあげたくない」
という相談は実は多いです。
この場合、例えば遺言で「遺産は全て妻に相続させる」などと書くことで対策するのが一般的です。
ですがこの場合でも、長男が相続人であることに変わりはありません。
したがって長男から妻に遺留分を請求する権利(遺留分減殺請求権)自体がなくなるわけではないのです。
遺留分とは、遺言等によっても排除できない、最低限確保できるとされている取り分です。
例えば相続人が妻・長男の場合、長男の遺留分は法定相続分(4分の2)のさらに半分の4分の1です。
ではいっそのこと、長男を相続人自体から除外することはできないのでしょうか?
答えは「制度としてはそのような方法があるが、実際には難しい」ということになります。
生前に虐待・重大な侮辱・その他著しい非行があった者を、相続人自体から除外することを「相続廃除」(推定相続人の廃除)といいます。
相続廃除の意思表示は、遺言ですることも可能です。
ただし遺言した上で、遺言執行者※が家庭裁判所に申立をし、家庭裁判所の審判で認容されなければなりません。
※遺言内容を実現する人。遺言で指定または家庭裁判所に申立して指定
この認容率は司法統計を見ると15~20%です。
「15~20%」ならそれなりに多いのでは?と思うかも知れませんが、現実にはかなり低い率と考えます。
なぜなら相続廃除という制度自体、あまり知られていないので、弁護士・司法書士に相談した上で遺言に書いたり、申立を検討しているはずです。
つまり弁護士・司法書士が「全く通る見込みがない」と考えるケースは除外されている可能性が高いです。
にもかかわらず15~20%、ということだからです。
■未成年後見人の指定
未成年者(満18歳未満の者)が売買や賃借等の法律上の行為を行うには、親権者が代理して行う、または、親権者の同意を得て行う必要があります(もらったこづかいを使う等は除く)。
親権者とは父母ですが、例えば離婚して母が親権者となり、その母が亡くなった場合、財産管理等を行う者がいなくなってしまいます(父が親権者になるわけではありません)。
また離婚していなくとも、父母が事故等で(ほぼ)同時に亡くなった場合も同様です。
例えば2011年の東日本大震災では、津波で父母を一度になくした子が多くいました。
このような場合、財産管理等を行う未成年後見人が必要になりますが、これは最後の親権者が遺言で指定することが可能です。
指定があれば、親権者の死後10日以内に未成年者が住民票を置く市区町村役場に届出をするだけで済みます(戸籍法81条1項)。
指定がない場合は、家庭裁判所へ申立する必要があります。
申立できるのは、未成年者本人、未成年者の親族、利害関係人(児童相談所長や里親等)です。
この時、未成年後見人の候補者を挙げることはできますが、なぜその候補者が適任であるのか、一定の説明は求められるでしょう。
ですので万が一に備え、未成年後見人を指定しておくことが望ましいです。