相続登記放置のデメリットとは?その4(数次相続)
■相続人が亡くなってさらに相続が…
相続登記を放置するデメリットの1つに、相続人に相続(数次相続)が発生し、手続の複雑化や、想定外の代償分割金が必要になる、という点が挙げられます。
次のような事例で見てみましょう。
●事例(相続登記を放置して“罰金”250万円取られた話)
相続が発生し、被相続人の相続人が妻と長男とします。
長男は思いました。
「親父が亡くなってもうすぐ3年。そろそろ相続登記する頃だけど、相続人は母さんと俺だけ。後でもいいか」
ところが、長男は不慮の事故で突然、亡くなってしまったのです。
「何てこと?!まさか息子のあなたまで…」
奥さんは悲しみに暮れましたが、落ち込んでばかりもいられません。
まだ足腰の元気なうちに、保留していた相続登記をしようと決意しました。
それには、長男の妻とその娘(未成年)をまじえ、遺産分割を行わなければなりません。
なぜなら長男が亡くなったことにより、彼らも亡くなった夫の相続人となったからです。
これが数次相続です。
■未成年とその親権者が遺産分割するには特別代理人が必要
奥さんは言いました。
「この家を私名義にしようと思うの。協力してもらえる?」
長男の妻は答えます。
「いいですよ。娘は未成年なので、私が親権者として代わりに遺産分割しますね」
未成年者が遺産分割などの法律上の行為をするには、法定代理人である親権者が代わりに行うか、親権者が同意する必要があります。
なので、奥さんは自分・長男の妻・孫(親権者である長男の妻が代理)の実印を押した遺産分割協議書を作り、法務局に相続登記を申請しました。
ところが申請後、法務局からこんな連絡がありました
「すみません、先日の申請取り下げてください。未成年の相続人は、家庭裁判所で遺産分割案を認めてもらわないとダメなんです」
そうなのです。
上記のように、未成年者の法律行為は、原則として親権者が代理します。
しかしこの事例では、未成年者と親権者の利益が相反します。
この場合、家庭裁判所に遺産分割案を提出し、特別代理人を選任してもらう必要があるのです。
参照ページ:Q2-4 相続人の中に未成年がいます。親権者が代わりに遺産分割していいですか?
■未成年に法定相続分を与えないとダメ?!
奥さんは「そんな?!」と驚きましたが、法律なので文句を言っても仕方ありません。
「特別代理人選任申立書」に自分が不動産を相続する遺産分割案を添えて、申立しました。
ところがまたここでつまづきます。
家庭裁判所から「この分割案は認められません」と言われてしまったのです。
奥さんは思わず「えっ、何で?」と尋ねました。
家庭裁判所は答えます。
「未成年といえど一人の人間。この不動産は評価額1000万円なので、法定相続分相当250万円をお孫さんがもらう案にしてください」
図:現在の法定相続分
奥さんは再び「ええっ?!」と驚きました。
が、そもそもこれを通さないと自分名義にできませんし、そうなると事実上、売ることもできません。
長男の子が成人するのを待つという手もありますが、それだと10年以上かかります。
第一、相続登記の期限である3年も過ぎてしまいます。
もちろん奥さんにとってはかわいい孫なので、お金(代償分割金)をあげることはやぶさかではありません。
ですが、予想外の出費、という点においては、(語弊がありますが)思わぬ“罰金”という言い方もできるのではないでしょうか。
このように不測の事態がおきない保証はありません。
相続登記は、司法書士に相談し、早めに済ませましょう。
※なお未成年者に法定相続分を受けさせるかどうかは、家庭裁判所により取り扱いが異なります。
未成年者の生活等を害さない事情を説明すれば、未成年に法定相続分相当を渡さない案が通る場合もあります。