相続登記放置のデメリットとは?その5(売却の機会損失)
■相続登記がされていないと事実上売れない
父から実家不動産を相続したAさん。
母は既に他界。
自分にはマイホームがあり、誰も住む見込みがないので、売ることにしました。
「他にやることはなかったっけ?」
ネットで色々調べるAさん。
すると法務省のホームページに、こんなことが書かれているのを見つけました。
「ん?相続登記義務化?」
そう言えば、ニュースで聞いたことがあります。
でも「どうせ手離す空き家のために、わざわざ相続登記なんてしなくていいでしょ」と思い、Aさんは相続登記をしませんでした。
数週間後。
購入希望者のBさんから電話がありました。
「すみません、この物件買いたいんですけど」
Aさんは「ありがとうございます!」と意気揚々。
ところが…。
B:あれ?でも登記簿の名義が亡くなったお父さんのままじゃないですか?
A:ええ、でもどうせ買主名義に移すなら私名義にする必要ないでしょ?
B:何言ってるんですか?いったん相続登記しないと私名義には移せないんですよ?
何と?!
1000万円も払って自分名義にならない物件なんて、普通の人は買いません。
つまり「相続登記がされていない物件は、事実上売れない」と言って差し支えないということです。
でもなぜ相続登記を経ないと、買主名義に登記を移せないのでしょう?
■死者が物件売却の意思表示をできるわけない
父が亡くなった時点の登記簿は、ご覧の通りです。
相続登記を経ず、直接買主名義に登記を移転できるとしたら、どのような登記簿なるでしょう?
こうなります。
変だと思いませんか?
亡父が買主と売買契約を交わし、登記も移転したような記録になります。
でも売買契約の時点で亡くなっている父が、どうやってその意思表示をしたのでしょう?
現実にありえません。
不動産登記には、法律上の権利変動を忠実に記録するという使命があります。
したがってこのような登記はできず、下図のように長男Aさんに相続登記を入れてから、買主Bさんに移転登記をいれなければならないのです。
■1か月もかかるなら買いません!
Aさんは慌てました。
「えっ、そうなんですか?司法書士に頼んでも1ヶ月くらいかかるらしいので、待ってもらえますか?」
ところがすぐに物件を買いたかったBさんは「じゃあ、いいです」とお断り。
「そんなぁ…」
こんなことなら素直に相続登記をしておくんだったと、後悔するAさんでした。
このケースでは、財布からお金が減ったわけではありませんし、物件が失われたわけではありません。
帳簿的には損失はゼロです。
しかし住む見込みもない空き家は、Aさんにとってはいわば「価値ゼロ」だったのに、それを1000万円に現金化するチャンスを逃してしまったのです。
そう考えると、こうした機会損失はある意味”罰金“を払ったようなもの、と解釈することもできるのではないでしょうか?
何とももったいない話です。