Q 相続した不動産登記簿に古い仮登記が残っています。どうしたら消せますか?
■訴訟を起こすのが最短ルート
相続登記のご依頼を受けていると、下図のように40年以上前など父母・祖父母の代になされた古い仮登記が残っている登記簿をしばしば見かけます。
このような仮登記が残っていると、その不動産の売却に支障が出ることがあります。
なぜならもしこの仮登記の名義人が、本登記を申請した場合には、それより後に入った登記(上図でいうC名義の3番登記)は、全て職権で抹消されてしまうことになっているからです(不動産登記法第109条第2項)。
実際にはもちろん、このような古い仮登記は、名義人本人ですら既に忘れていたり、既に亡くなっていてその相続人達も仮登記の存在を認識していないことが大半です。
したがって本登記申請がされること自体が稀です。
しかしこのような他人の権利がついたままの不動産を買うに当たり、買主は売買代金の支払を拒絶できるとされています(民法第576条)。
不動産仲介業者からも、万が一のトラブル回避のため、仮登記を抹消するよう言われる可能性が高いです。
よって面倒ですが、早めに抹消してしまうのが安心です。
では具体的にはどのような手続が必要なのでしょうか?
結論から言うと、訴訟を起こしてしまうのが、遠回りのようで、最も近道です。
次の章で詳しく解説します。
■訴訟はあくまでも手段。怖がる必要ありません
「訴訟なんて穏やかじゃないな…」
一般の方ならそう思われても無理はありません。
ですが、ご安心ください。
なぜならこの訴訟は、あくまでも仮登記を消すための手段にすぎないからです。
しかも訴訟をすることで、相手である仮登記名義人(の相続人)の手間も大幅に減らすことのできる優しい手段なのです。
一方、仮登記名義人(の相続人)と連絡を取り、任意で抹消登記申請しようとすると大変です。
なぜなら司法書士との面談による本人確認の他、印鑑証明書の取得、そしておそらく捨てたか保管しているかも不確かな登記済証(仮登記の権利書)を見つけてもらわなければならないのです。
訴訟をすればそのような手間が省けます(民事執行法第177条・不動産登記法第63条第1項)ので、仮登記名義人(の相続人)の手をわずらわせることもありません。
とはいえ、「いきなり裁判所から訴状が届いたら、相手が怒るのではないか?」という心配もわかります。
そこで当事務所では、可能な範囲で、仮登記名義人に事前にお手紙をお送りするようにしています。
内容としては仮登記が残っている事実と消す必要性を簡潔に説明した上、「あなたのお手をわずらわせないための訴訟ですので、ご協力をお願いします」といった内容です。
なお仮登記名義人(の相続人)の所在が不明な場合は、裁判所から調査するよう求められたり、公示送達※を行う、特別代理人を選任する等を行います。
※裁判所への掲示等、一定の手続を経て、相手に訴状が届いたものと法律上みなす制度
これらについては、裁判所がケースバイケースで判断することとなります。
■固定資産額560万円以内なら司法書士が訴訟を代理
ところで訴訟と言えば弁護士がまず思い浮かぶと思います。
司法書士がそのような訴訟の代理をできるのでしょうか?
結論としては、簡裁訴訟等代理権認定を受けた司法書士(いわゆる認定司法書士)であれば、扱える可能性も十分あります。
なぜなら固定資産評価額※が560万円以内の不動産の仮登記抹消請求であれば、簡易裁判所でも扱える管轄となるからです(裁判所法第33条第1項第1号・平成6年3月28日民二第79号民事局長通知 )。
※市場価格のおよそ7割。毎年4~5月に市区町村役場・市税事務所から来る固定資産通知書に記載されています
また簡易裁判所の管轄でないとしても、司法書士には訴状等の作成権があります。
地方裁判所への訴状を作成し、提出することが可能です。
ただしこの場合、代”理”ではなく、代”書”ですので、口頭弁論期日に依頼者に行っていただく必要があります。
それが難しい場合は、弁護士を紹介します。
■費用は10万~20万円
また気になるのは費用の方だと思います。
当事務所の報酬基準に照らし合わせた場合、ケースバイケースですが、「予算として20万円。ただし10万円前後で終わるケースも多い」という言い方になります。
内訳(税別)としては、次の通りです。
①訴訟の着手金 5万円
②訴訟の実費(印紙・切手) 1万5000円
③判決の確定証明書取得 5000円
④戸籍・登記簿・各種資料等収集 5000円
⑤仮登記抹消登記 1万3000円
⑥特別代理人選任申立の予納金 10万円
その上で、⑥については裁判所に求められた場合のみ行うことになります。
したがって結果として10万円前後で終わるケースも多い、ということになります。
■登記の専門家として将来に禍根を残さない登記簿を目指す
司法書士は不動産登記の専門家です。
当事務所は執務姿勢として、ご依頼が相続登記であったとしても、それさえやれば他のことはやらなくてよい、という考え方はしていません。
このように依頼者の相続人を含め、将来の不動産管理・売却に禍根になる要因が登記簿に残っていれば、迷わず指摘します。
もちろん指摘の上で、それを行うのか、当事務所にそれも含めて依頼するのかは、依頼者の意思を尊重します。