Q 住所変更登記が義務化されますが、忘れても職権登記されるので放置しておけばいいですよね?
■5万円以下の過料を科されるおそれがあるので、おすすめしません
結論から言うと、おすすめしません。
なぜなら5万円以下の過料を科されるおそれがあるからです。
ただし「この記事を書いている2024年11月8日時点で想定しうる『最悪のシナリオ』」では、という条件つきですが。
「最良のシナリオ」については、最後に書きます。
が、最悪のシナリオを想定した理由を、以下の通り説明します。
1.住所変更登記義務化と職権登記制度が創られた経緯
職権登記がなされることになった経緯は、次の通りです。
(1)相続登記・住所変更登記忘れにより、所有者不明土地が九州と同じくらいにまで増え社会問題化
(2)相続登記・住所変更登記が義務化。
罰則として住所変更から2年以内に申請しないと、5万円以下の過料を科される定めに
(3)しかしそれでも忘れる人がいることが想定されるため、職権登記もできる制度に
ここから導かれるのは、法務省は以下のような考えを持っているということです。
「住所変更登記はあくまでも名義人からの申請で行うのが原則。職権登記はあくまでもそれを補完するものに過ぎない」
2.職権登記が行われるまでの流れ
また名義変更後、職権登記が行われるまでの流れは、次の通りです(詳しくは下記のページ参照)。
(1)名義変更時、申請者が法務局にメールアドレスを届ける
(2)定期的に法務局と住基ネットの情報を照合し、住所変更登記がされていない名義人にメールで連絡
(3)法務局からのメールでの意思確認に対し、名義人が職権登記に同意
(4)法務局が職権登記を行う
ここから推察されることは、法務省としては、上記(2)の時点で登記を怠っていることに気づいた名義人が、自発的に住所変更登記をすることを期待しているのではないか、という点です。
Q 不動産の名義変更時にメールアドレスの届出が義務づけされるのですか?
3.住所変更登記義務違反の過料は実効性ある運用と予想
上記のような制度の趣旨と、それができた経緯からすると、私個人の予想としては、次のような運用になると予想します。
(1)職権登記の意思確認メールは、住所変更登記の申請期限である2年を過ぎた人に絞って通知される
(期限の猶予がある以上、その期間内は名義人からの自発的な申請を待つべき)
(2)下記のいずれの場合も、期限内に申請しなかったことに変わりはないので過料を科す。
ただし過料の額は、①<②<③となることはありえる。
①登記の遅れに気づいて自ら変更登記した場合
②名義人の希望に従い、職権登記を行った場合
③職権登記に同意せず、かつ、正当な事由がなかった場合
(3)過料の額は1物件1000円を超える額となる
(1物件1000円は申請した場合にかかる登録免許税相当額)
■「正直者が馬鹿を見る」運用にはならないはず
私がなぜ上記のような運用になると予想するのか?
それは一言で言うと、「正直者が馬鹿を見る」ようなしくみに国がするはずがない、と考えるからです。
その根拠として、相続登記・住所変更登記義務化が国会で決まった際の「附帯決議」には次のようにある点を挙げます。
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⺠法等の⼀部を改正する法律案に対する附帯決議
政府は、本法の施⾏に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。
⼆ 相続登記等の申請の義務違反の場合において、法務局における「正当な理由」の判断や裁判所に対する過料事件の通知の⼿続等過料の制裁の運⽤に当たっては、透明性及び公平性の確保に努めるとともに、DV被害者の状況や経済的な困窮の状況等実質的に相続登記等の申請が困難な者の事情等を踏まえた柔軟な対応を⾏うこと。
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「相続登記等」の「等」に住所変更登記が含まれるとすれば、「公平性を確保」するため、
「きちんと期限内に変更登記申請した人」と
「『どうせ職権登記されるのだから』と放置した人」に
何かしらの差を設けることは十分に考えられます。
この点、期限内登記の場合、名義人の負担は登録免許税(1物件1000円)のみです(司法書士に依頼しなかった場合)。
ですので、放置した名義人には、これを超える負担を何らかの形で与えないと、バランスが取れません。
それが5万円以下の過料です。
しかもこの過料は、理論上1物件5万円まで科すことが可能ですので、土地・建物各1件であれば、最大10万円です。
そしてこれも理論上、義務が履行されるまで、何度でも科すことが可能です。
1物件1000円をケチって、数万円の過料を科せられるのは、割に合いません。
以上が、現時点で考える「最悪のシナリオ」を前提としたアドバイスです。
■最良のシナリオは住所変更登記の非課税化
ただしもう1つ、「最良のシナリオ」もありえます。
それは「そもそも住所変更登記の登録免許税が非課税となり、過料もあえて科さない」というものです。
根拠として、上記と同じ相続登記・住所変更登記義務化が国会で決まった際の「附帯決議」に、次のようにもある点を挙げます。
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⺠法等の⼀部を改正する法律案に対する附帯決議
政府は、本法の施⾏に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。
三 相続⼈申告登記、住所等の変更登記をはじめとする新たに創設する職権的登記について、登記申請義務が課される者の負担軽減を図るため、添付書⾯の簡略化に努めるほか、登録免許税を⾮課税とする措置等について検討を⾏うとともに、併せて、所有者不明⼟地等問題の解決に向けて相続登記の登録免許税の減免や添付書⾯の簡略化について必要な措置を検討すること。
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これであれば期間内に自ら申請した人も、期間後に職権登記された人も、何もしなかった人も一律負担なしで公平性が保たれます。
私としては、これが一番良いのではないかと思っています。
ただし、現時点では正式に政府からの発表がないため、期間内に住所変更登記することをおすすめします。