Q 相続の戸籍集めがオンラインでできるようになるって本当?
■司法書士等の士業者に限り戸籍集めのオンライン化が検討されています
相続業務において、その第一歩となるのが戸籍集めです。
戸籍を集めることで、法定相続人が確定するからです。
現在、この戸籍集めは、書面申請のみで認められています。
が、何とオンラインでできるようになるかもしれない、というニュースが飛び込んで参りました。
2025年6月13日、内閣府の規制改革実施計画において 、「士業者※が戸籍証明書等をオンラインで請求できる仕組みを新たに創設」する案を「令和7年度結論等」と発表されました。
※弁護士、司法書士等
内閣府規制改革推進室「規制改革実施計画」主要事項説明資料(令和7年6月13日閣議決定)
この記事では、このオンライン化が、皆さんがいずれ迎える相続にどのような効果をもたらすのか、また懸念点について解説して参ります
■戸籍集めの基本と現状
まずオンライン化の解説の前に、戸籍集めの基本と現状について説明します
知っている人はこの章は飛ばしていただいて結構です。
相続手続に必要なのは、次の戸籍※です。
※この記事では戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍をまとめて「戸籍」と呼びます
1.被相続人の出生から死亡までの戸籍
2.被相続人の住民票除票
3.相続人の現在の戸籍
※被相続人=亡くなった方
請求先は、それぞれの戸籍の本籍のある市町村役場です。
ところが人が一生のうちに一度も本籍を変えないことは稀で、転居、結婚、離婚等のタイミングで本籍が変わるケースが通常です。
集める際には、基本的に日付の新しい戸籍を見ることで、その前の古い戸籍の本籍がどこにあるのか判明します。
ですので、死亡から出生にさかのぼるような形で、順次複数の市役所に請求していくことになります。
では、事例として4箇所の市町村にまたがる戸籍を郵送で取得するケースでは、どれくらいの期間がかかるのか、計算してみましょう。
現在、普通郵便は、ポストに投函してから送り先に届くまで2日はかかってしまいます。
従って月曜日に出した郵送戸籍請求が、市役所に届くのは水曜、その日のうちに交付して返送されたとしても、届くのは金曜日となってしまいます。
したがって1箇所の自治体で1週間、4箇所なら4週間かかる計算となります。
もちろん実際には複数の市役所に並行して請求することが可能なケースもあるので、これより短期間で済むケースもあります。
また言うまでもなく、速達等を使えば半分程度に短縮可能です。
当事務所でも、戸籍請求の際はレターパックライトを使い、時間を短縮しています。
それでも2週間程度かかることが多いです。
戸籍集めの基礎知識と現状かかっている期間です。
では次に、これがオンライン化でどう変わるのか、考えてみます。
■1日で集め終わる可能性も?
では司法書士等、士業者の戸籍集めがオンライン化された場合、実際にどれくらいの効果が出ることが予想されるでしょうか?
これについては、戸籍が書面で郵送されてくるのか、オンラインでPDFによる交付がされるのかによって結論が変わると思います。
※PDF=官公庁・企業で広く使われる文字・レイアウトが崩れず、どんな端末(パソコン、スマートフォン)でも同じ見た目で表示される便利なファイル形式
書面なら、現状の往復郵送が、片道郵送になりますので、戸籍集めが単純計算で半分。
これまで4週間かかっていたものが、2週間程度になるものと思われます。
次にオンラインにより戸籍のPDFファイルが送られる場合、どうでしょうか?
これについては郵送自体がないわけですから、複数の市役所で順次申請・即日
交付され、1日で集め終わる可能性も出てきます。
もちろん市役所の申請の込み具合によっては、すぐに交付されないこともありえますが、それでも3日ほどで終わるのではないでしょうか
2~4週間かかっていたものが1日で終わる。
これは大変すごいことなので、ぜひ実現して欲しいと思います。
■司法書士に依頼という選択肢の価値が高まる
ここまで読んだ一般の方は、「でも結局、司法書士等、士業者のみにオンライン戸籍請求が認められる話なら、自分には関係ない」と思われたかもしれません。
ですが、私は関係あると思います。
一般の方の中には、仕事が忙しくて市役所に行く時間が取れない方、高齢のため市役所に行くのが体力的に厳しい方がいます。
また相続業務の最前線にいるとわかりますが、感情的な面で大変な思いをしている方もいます。
相続が発生しているということは、親や子ども、きょうだいが亡くなっているわけです。
その悲しみから立ち直れないうちは、戸籍集めをするという事務的なこともつらく感じることがあります。
ですが、いつまでもやらないわけにはいかない。
なのでそうした事務を司法書士が代わりに行うことで、少しでも気持ちが楽になってもらえたらいいなと思います。。
このオンライン化は、司法書士に依頼するという選択肢の価値を高めるものだと、私はとらえています。
■一般の方のためには広域交付がある
上記の通り、オンライン化は司法書士等の士業者のみが対象です。
ですが、一般の方の戸籍集めには、2024年3月1日から始まった広域交付制度があります。
これは、例えば旭川市に本籍のある戸籍を、札幌市役所からでも取得できるという制度です。
これにより、1つの市役所で全国に本籍のある戸籍が集められます。
しかし広域交付は現状、以下のように市役所によって扱いがまちまちです。
例:
・申請しても当日中に交付されないので翌日以降に取りに来なければならない
・(上記とは逆に)逆に翌日以降への持ち越しできないので、当日中に取りに来ないといけない
・出張所での広域交付の取り扱いはなく、本庁のみ
が、かつてのように各本籍地の市役所に行くか郵送しか方法がなかった頃と比べれば、利便性は向上しています。
逆にこの広域交付、司法書士等の士業者は利用の対象外です。
参考ページ Q 戸籍が近くの市役所窓口1か所で集められるようになるって本当ですか?
■戸籍集めオンライン化の懸念点
懸念点もあります。
現在の士業者の戸籍集めでは、職務上請求書という専用の用紙が使われています。
同じ士業者として非常に残念なのですが、この職務上請求書を法律上認められていない形で悪用、例えば探偵業者に貸し出す、目的外で使用するなどの不届きな士業者がごく一部ですが存在します。
オンライン化により、こうした悪用がやりやすくならないか、という点が心配です。
これについては、例えばAIで疑わしい申請を感知するようなシステムを構築し、予防や早期発見策を施すべきではないか、と思っています。