Q 故人の口座に預金が残っています。銀行に死亡を伝えず下ろしてもいいですか?
■止めも勧めもしないが自己責任で
銀行口座をお持ちの方が亡くなり、相続人が預貯金を相続する手続の流れは次の通りです。
1.銀行に死亡届を出し、凍結する
(凍結=口座から預金の引き出し等ができなくなる状態)
2.故人の出生~死亡の戸籍を集める
3.相続人全員で遺産分割協議を行い、誰がいくら相続するのか決める
4.銀行指定の相続手続依頼書に署名・実印し、印鑑証明書とともに提出
ですが、例えば生前の口座名義人から何らかの理由で銀行届出印やキャッシュカードの暗証番号を聞いていた場合、ここまでせずとも、物理的には預金の引き出しが可能です(もちろん、銀行のルールには反しています)。
ではそのような方法で引き出した現金を、相続人で話し合って分けるのはいけないことなのでしょうか?
特に残高が少額の場合は、面倒な手間をかけたくないのは、気持ちとしてはわかります。
これについては、「止めも勧めもしませんが、自己責任でやってください」という答えになります。
リスクとしては、次のようなものがあります。
(1)代表して預金引き出しした相続人による使い込み・持ち逃げ
(2)戸籍を集めて相続人を確認しない場合、知らない相続人が実はいるのを知ることができない
(知らない相続人=前妻との子、異母・異父兄弟等)
法律専門職である私としては、やはり通常通りの手続を踏むのが無難と言わざるを得ません。
■口座凍結=悪ではない
ところで口座凍結は上記のような簡易な方法での預金相続ができなくなる点において、非常に不便と思われる方もいるかもしれません。
ですが、決してそんなことはないと考えます。
それは「使い込み」「持ち逃げ」を防止できるからです。
例えば次のようなことが考えられます。
1.口座名義人は生前、高齢で外出が厳しくなり、近くに住む長男に、振り込まれた年金を銀行で引き出してもらうため、通帳・届出印・キャッシュカードを預け、暗証番号も教えていた。
2.口座名義人が亡くなり、長男が出来心で「長女と遺産分割する前に口座から全部抜き出してしまえばいいのではないか」と思い立ち、実行
このようなことを防ぐため、長女から銀行に死亡届を出して凍結する、という方法が考えられます。
■遺産の使い込みの刑事事件化は難しい
当然疑問として、「遺産の使い込み・持ち逃げは窃盗・横領といった犯罪になるのではないか?」と思われるのではないでしょうか?
実際、そのような相談はしばしば受けます。
ですが、難しいのはないでしょうか?
警察は民事不介入です。
また起訴され、有罪となる確証がある程度ないと、被害届を受けても捜査・逮捕に向けた動きはしづらいものです。
この点、遺産を使い込んだのが、相続人の一人である場合、その人のお金でもあるわけです。
(相続人以外の無断引き出しが刑事事件となった例はあります)
「あとで分けるつもりだった」等の言い訳をされると、民事的な紛争として処理されてしまう可能性が高いと思われます。
実際、このような遺産使い込みで刑事立件された、というニュースは聞いたことがありません。
もちろん民事的に返還を求める訴訟(不当利得返還請求)はありえます。