Q 我が家の相続に相続税はかかりますか?
■税理士ではないのでお答えしかねます。が…
司法書士の相続業務と言えば、不動産の相続登記(名義変更)と預貯金払戻です。
ですが、やはり相続つながりで、依頼者からは「この相続で相続税はかかりますか?」という質問はどうしてもされます。
残念ながら私は税理士ではないので、「相続税発生の有無」や「相続税額の計算」といった個別具体的な事案への回答はしかねます。
なので、「税理士を紹介するので、そちらにご相談ください」という答えになります。
ですが、それではご不満が残ることでしょう。
ですので、司法書士としてごく一般的な情報提供のみさせていただいています。
ただしこれは一定の目星をつけるためのもので、あくまでも厳密な判断は税理士に相談してから行ってください。
■相続税の基礎控除と3つの落とし穴
まず一番のポイントは、基礎控除を超えているかどうかです。
基礎控除とは、「遺産総額がこの額を超えていなければそもそも相続税は発生しないし、申告も不要」というラインです。
その計算式がこちらです。
3000万円+600万円×法定相続人の数
事例で考えましょう。
ある男性が亡くなり、法定相続人がその妻と長男の2人とします。
この場合の基礎控除は次の通りです。
3000万円+600万円×2人=4200万円
つまりこのケースでは、遺産総額が4200万円を超えていなければ、相続税は発生せず、申告も不要ということになります。
※ただし基礎控除をわずかに下回るようなケースでは、あえて相続税ゼロで申告することがあります。
不動産評価額等で税務署の評価と差がある場合がありますが、同じ誤りを指摘されるのでも、申告した上か、無申告かで、税務署の対応も変わってくるためです。
ところがここで、一つ大きな注意点があります。
これを読んだ皆さんは、「では亡くなった時点の不動産の評価額と預貯金残高を合計して判断すればいいんですね」とお思いになったのではないでしょうか?
これが危険なのです。
実は「みなし相続財産」といって、”相続税の計算においては”遺産と扱い、加算しなければならないものがあるからです。
これについて詳しくは、国税庁ホームページの「相続税の申告のためのチェックシート(令和5年1月以降提出用)」をご覧ください。
ただし見ての通り、かなり細かい項目まで書かれていますので、一般の方にはわかりづらいと思います。
(というより、私も税理士でないため全ては理解していません)
ですがこの中で特に見落としがちな3つのポイントをピックアップして解説します。
■①生命保険の死亡保険金
生命保険の死亡保険金で、500万円×法定相続人の数を超えるものは、その超えた部分につき、みなし相続財産として遺産に加算します。
例えば上記の例のように、相続人が2人であれば、500万円×2人=1000万円を超える死亡保険金がある場合、加算の対象です。
実は生命保険は相続対策として使われることがあります。
なぜなら簡易な手続で、迅速(5営業日前後。即日入金という保険もあります)に現金が下りるため、葬儀費用や生活費が保険金受取人にとって非常に助かるからです。
これに対して、相続による預貯金払戻には司法書士が関与しても1~2ヶ月かかります。
これは①戸籍集め②遺産分割③銀行所定の書式や印鑑証明書等の提出を経るためです。
生前、保険の営業担当と深い交流があった方の中には、このような保険に加入している可能性があります。
では、亡くなった方と疎遠で、どの保険会社と契約があるかわからない場合、数ある保険会社に1件1件確認しなければならないのでしょうか?
この点、今は便利になっており、一般社団法人生命保険協会のこちらのページから、42社の保険会社に一括して照会をかけることが可能です(手数料3000円)。
※法律上、死亡保険金は遺産ではなく、遺産分割の対象にもなりませんが、相続税の計算においては遺産と取り扱うことになります。
担税力に応じて税を徴収するが税制ですから、法律との「言語の違い」に注意しなければなりません。
■②株式
次に株式です。
株式というと、証券会社の口座にある上場株式を思い浮かべるかもしれません。
もちろんそれも遺産に含めます。
ですが特に注意しなければならないのは、生前に自ら出資して会社経営していたいわゆるオーナー社長のケースです。
これも遺産にカウントしなければなりません。
このような非上場株式は、取引相場がなく、税理士でもその評価が大変だそうです。
国税庁ホームページの「取引相場のない株式の評価」に概要が書かれていますが、これを見ただけでも税理士に相談しないと無理とお分かりになると思います。
■③生前贈与
生前贈与はやっている人が多いと思います。
前述の通り、預貯金を相続で払戻しようとすると1~2ヶ月かかります。
それでは払戻するまでの間の生活に困るだろう、ということで、生前に預貯金を下ろし、妻に渡した、というケースはよく聞きます。
これ自体は、相続対策の1つとして問題ありません(もちろん贈与税について適切な対応をしていることが前提です)。
なので「贈与して亡くなった夫のものでなくなったのだから、遺産には含めなくていいでしょ?」という考えたくなりますが、そうは問屋が卸さないのです。
実は亡くなる直前3年以内に行った生前贈与は、「遺産の前渡し」と扱い、相続税の計算においては遺産に含めるのです。
こうしないと、亡くなりそうになったら遺産を全部贈与して、相続税を逃れる、ということができてしまいます。
税制というのは、このように上手くできています。
しかも上記の「亡くなる直前3年以内」の部分については、2024年以降の相続から段階的に延長され、2030年末には「7年」に拡大されます。
■税理士は司法書士からの紹介がおすすめ
このように相続税の判断には色々な落とし穴があることが、おわかりいただけたと思います。
ですので、とにもかくにも、税理士にご相談いただくのが、一番手っ取り早いです。
では、税理士なら誰でも良いのでしょうか?
違います。
実は税理士には大きく分けて次の2タイプがいます。
①会社・個人事業主の法人税申告メインの税理士
②法人税も相続税も得意な税理士
言うまでもなく、依頼すべきは②のタイプの税理士です。
ではどう見つけたらいいのでしょうか?
個人的には司法書士にご紹介いただくのがいいと思っています。
なぜなら相続業務の90%は司法書士の業務範囲※だからです。
※相続税申告(税理士業務)が必要なのは全相続の9.3%(公益財団法人生命保険文化センター発表)。
争いのある相続(弁護士業務)が必要なのは全相続の約1%(すまいる発表)。
その司法書士から紹介される税理士であれば、②の条件に当てはまっている可能性が高いと言えるでしょう。
当事務所でも、相続税について詳しい相談をご希望の方には、税理士をご紹介しています。