相続登記放置のデメリットとは?その2(相続人が認知症に)
■相続登記の前提となる遺産分割自体ができない
「父が亡くなってもうすぐ3年。義務化された相続登記の期限(3年)も迫っているし、そろそろ実家の土地建物を遺産分割しないとな。今度久しぶりに帰省するから、その時に母さんや妹と話し合おう」
そう思って帰ってきた長男。
ところが母(被相続人の妻)は…
「はて…あなた達、誰だったかしらね…?」
何としばらく会わないうちに、認知症が進んでいたのです。
仕事等で忙しく、実家からも遠方で働いているため、なかなか帰省できずにいたのですが、まさかここまで進むとは…。
これでは、相続登記どころではありません。
なぜなら通常、相続登記の前提として相続人全員による遺産分割を行います。
ところが認知症が「遺産分割という法律行為により、自分にどんな権利義務が発生するのかを理解できないレベル」まで進んでしまうと、遺産分割に参加できません。
たとえ遺産分割協議書に署名・捺印しても無効となってしまうからです。
長男は慌てて司法書士に相談しました。
■成年後見人への報酬が亡くなるまで…
相続人の中に認知症の方がいる場合の一般的な対処法は、成年後見人を就けることです。
成年後見人とは、家庭裁判所に選ばれて認知症の方の財産管理等を行う人です。
誰が選ばれるのかは、家庭裁判所の職権です。
では「長男や長女を後見人に選んでほしい」という希望は通るのでしょうか?
今回のケースでは、お二人とも遠方にお住まいなので、その可能性は低いです。
このため、専門職後見人(弁護士・司法書士等)が選ばれるでしょう。
「専門職ということはお金が発生するのでは?」
その通り。その報酬は月2万円〜+αです。
月額の報酬は、財産額多いほど多くなります。
また「+α」とは何かというと、このケースのように遺産分割等、行った業務に応じた付加報酬です。
これらは全て、家庭裁判所が非公開の基準にしたがって職権で決定します。
「なるほど。では遺産分割成立に3か月要すると仮定すると、2万円~×3か月+αを払えばいいんですね」
と思われたかもしれませんが、違います。
現在の家裁の運用では、一度成年後見を開始すると、原則亡くなるまで終了することができません。
「えっ、なぜ?」
それは、成年後見が認知症となった方の保護を目的としているからです。
後見開始のきっかけとなった遺産分割が終わっても、認知症が回復したわけではないので、保護の必要性もなくなっていないですよね?
だから終了させるべきではない、という考え方なのです。
(ただしこれではあまりに使いづらいとの声が多いため、遺産分割成立等、一定の目的達成と同時に後見を終了できる制度を現在国で検討中です。その後の本人保護をどうするかも含め、決まるものと思われます。まだ検討の段階ですので、いつから始まるかは未定です)
つまりお母様があと10年で天寿をまっとうすると仮定すると、
月2万円~×12か月(1年)×10年=240万円
を払うことになる計算です。
もちろん専門職後見人の皆さんは仕事として執務に当たりますので、それを否定するつもりは一切ありません。
ですがお母様が認知症になる前に遺産分割・相続登記を済ませておけばかからなかった費用、予想外の出費と考えれば、言葉は悪いですが「デメリット」と言えるでしょう。
相続登記は今すぐ司法書士へのご相談をおすすめします。