相続登記放置のデメリットとは?その3(法定相続分の差押)
■相続登記と差押登記は早い者勝ち
夫が亡くなってもうすぐ3年になる奥さん。
そろそろ夫名義の自宅の相続登記をしようと思い、子ども達に尋ねました。
幸い長男も長女も「母さん名義にしていいよ」と快諾。
これで遺産分割成立。
ところが奥さん、「みんな納得してるし、登記は急がなくてもいいわね」とそのまま放置したのです。
これが不幸の始まりとも知らず…。
数か月後。
突然、裁判所から郵便が来ました。
開封してびっくり仰天。
中身は何と「不動産差押命令」
「どういうこと?!」
聞きこんでみるとどうやら原因は長男。
「ごめん。友達の借金の保証人になっていたんだけど、払えなくて裁判に負けたんだ…」
しかし奥さん、納得いきません。
「だとしても何でこの家が差押えされるのよ?
遺産分割したんだから私の物じゃないの?!」
確かに遺産分割することにより、不動産は奥さんの単独所有となるはずです。
なのに登記簿にはこのように記録されてしまっています。
「妻4分の2」「長男4分の1」「長女4分の1」(順位番号2番)
つまり、遺産分割する前の法定相続分での登記がされた上、長男の持分4分の1を差押える旨の登記(順位番号3番)がされてしまっているのです。
これはおかしいのではないか?と奥さんは思ったわけです。
どうなのでしょう?
結論から言うと、奥さんの「負け」
なぜなら登記は「早い者勝ち」だからです。
もしも遺産分割してすぐに相続登記していれば、次のように奥さん単独名義の登記が入っていたはずでした。
ところが相続登記しないうちに、債権者が法定相続分による登記と差押の登記を入れてしまいました。
(厳密には債権者の不動産強制執行の申立により、裁判所経由で登記)
この場合、早い者勝ちのルールにしたがって、奥さんは自分の法定相続分(4分の2)を超える部分について、債権者には権利を主張できないのです。
したがって、奥さんの「負け」となります。
■250万円の”罰金”を払うことに…
では、奥さんが不動産を取り戻すには、どうしたらいいのでしょう?
長男の借金(保証債務)を肩代わりして、差押を取り下げてもらうよう債権者に交渉することになるでしょう。
例えばこの不動産の評価額1000万円で、債務額が長男の法定相続分(4分の1)相当額と仮定します。
すると、250万円ということになります。
相続登記義務化によって、放置すること10万円以下の過料を科せられるおそれがあることは、だいぶ浸透したように思います。
ですが、こんなものは大したことではないのです。
場合によっては、このように大きな“罰金”を払うおそれもあるという事例でした。
相続登記は今すぐ司法書士への相談をお勧めします。