北広島にこやか遺言相続相談室

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Q 権利書が盗難に遭いました。私に無断で不動産を売られてしまうのでしょうか?またどうしたら?

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■貸金庫で権利書盗難

2024年末、衝撃の事件が発生しました。
三菱UFJ銀行で、銀行員が貸金庫から顧客の金品を盗む事件が発覚したのです。

三菱UFJ銀行の貸金庫窃盗、新たに数十人から被害申し出…顧客資産ずさん管理
読売新聞2024/12/16 21:54

日本はまだまだ銀行への信用がある国だと思っていたのですが、これでだいぶ揺らぐことになるのではないでしょうか?

さらに、被害者の中には不動産の権利書を盗まれた人もいたそうです。

その方は、金庫を閉める前に、中に入れたものの写真を撮影していたそうで、そこから権利書の窃盗が発覚したとのことです。

「三菱UFJ貸金庫事件」の全容は闇の中…”家宝のダイヤ”を失った男性が「被害届は出さない」と肩を落とす理由
プレジデントオンライン2024/12/20 8:00

事件の詳細については、今後の捜査や裁判に委ねるとして、このニュースから、こんなことを考えた人もいるのではないでしょうか?

「権利書なんか盗まれたら、その不動産を本人に無断で、盗んだ人や第三者に書き換えたり、売ることができてしまうのではないか?」
「貸金庫に限らず、自宅等で保管していた権利書を盗まれたらどうしたらいいのか?」
この記事では、この2点を解説します。

■権利書とは

はじめに、そもそも権利書とは何かを解説します。
ご存知の方は次の項目からお読みいただいて結構です。

現在の不動産登記法では、不動産の相続・売買・贈与等があり登記(名義変更)をした場合、下図のように数字とアルファベット12字の組み合わせが発行されます(この登記識別情報はサンプルです)。

これを記載した紙(下図)を登記識別情報通知といいます。

出典:登記識別情報通知書の様式の変更等について(法務省)

これを所持していることが、その不動産の所有者であることの一定の証明となり、次に売買や贈与、抵当権設定をする際に必要になってきます。

また約20年以上前の古い時代に登記されたものは、登記識別情報ではなく、登記済証といって、申請書副本や売渡証書等に法務局により「登記済」という印鑑が押された書類が権利書になります。

(登記済証から登記識別情報への切り替えは、法務局により時期は異なりますが、2005年~2008年にかけて行われました)

登記済証のイメージ

登記済印のイメージ

この記事では、この登記識別情報通知登記済証を合わせて「権利書」と呼びます

なおたまに誤解があるので、補足します。
その誤解というのは、「権利書をなくしたら、権利そのものもなくしてしまう」というものです。

そんなことはありません。
なぜなら権利書は、名義変更などを行う際に必要な書類ではありますが、権利そのものではないからです。
権利書をなくした場合の不動産売却などの手続については、こちらの動画をご覧ください。

では次の項目で本題に入ります。

 

■虚偽登記される?

では本題です。
「もし権利書を盗まれたら、せっかく買ったり、もらったり、相続して所有権を得た不動産を、本人に無断で、盗んだ人や第三者に書き換え、売ることができてしまうのではないか?
これは三菱UFJ事件のように貸金庫に限らず、自宅で保管していた場合も、同様の不安があると思います。

この疑問への回答としては、「権利書を盗まれただけでは難しい」ということになります。

そもそも不動産の名義変更をする時には何が必要なのでしょうか?
これについては、相続による名義変更と、売買・贈与等による名義変更の2つに分けて説明します。

1.相続登記

相続登記の場合、権利書は使いません。
戸籍等を集めて名義変更することになります。
したがって、そもそも権利書の有無は関係ありません。

2.売買・贈与等の登記

問題は後者、売買・贈与等の場合です。
このように生きている人から生きている人への名義変更では、次の3つのものが必要です
権利書
実印
印鑑証明書(3か月以内)
不動産の所有権を手放す側である登記名義人は、この3つをそろえるのが基本となります。

したがってこのうち、権利書だけを盗んでも、実印と、印鑑証明書もしくは印鑑カード(印鑑証明書を発行するため、市役所で発行されたカード)がなければ、不動産名義を変えることができません
したがって「権利書を盗まれた“だけ”では、登記簿上の名義人から自分名義又は第三者に名義変更を行う難しい」という結論になります。

ですが、逆に言えば、権利書と、実印と、実印の印鑑カードを一緒に保管するのは危険、ということになります。
不動産をお持ちの方、またはこれから相続等でお持ちになる予定の方は、これらを別々の場所に保管することを強くお勧めします。

■権利書を盗まれたら?

では次に、「実際に権利書を盗まれてしまったら、どうしたらいいのか?」ということについて解説します。

なおこの項目で説明するのは、権利書を盗まれた後、虚偽の名義変更が完了する前の話です。

虚偽の名義変更が申請され、完了してしまった後の話ではないことにご注意ください。

 

やることは大きく分けて3つです。

1.警察に被害届

まず警察を呼びます。
これは当然ですね。
警察を呼んで、被害届を提出してください。

2.市役所で印鑑証明書

次にお住まいの町の市役所に行って、印鑑証明書を発行してください。
これは3つ目の手続で使います。
さらに実印や印鑑カードまでも盗まれている場合には、登録されている実印の変更印鑑カードの再発行を行ってください。
これは犯人が、印鑑証明書の交付を受けしまわないようにするためです。

3.法務局で不正登記防止申出

最後、3つ目ですが、盗まれた権利書の管轄の法務局に、実印と印鑑証明書を持って行ってください。
そこで何をするかというと、「不正登記防止申出」というのを行うことになります。
そのための書面がこちらです。

出典:法務省ホームページ (こちらのPDFの30ページ目)

当然、権利書を盗んだ犯人が次にすることと言えば、その不動産を第三者に売ってお金に変えてしまうことです。
したがって近々、虚偽の登記が申請されるおそれが強いわけです。
この点、この不正登記防止申出というのは、

「今後3か月以内にこの不動産に登記申請がされたら、虚偽のおそれが強いので、登記名義人本人である私に連絡してくださいね」

という制度です。


そして実際、虚偽が疑われる場合には、法務局が調査をし、その結果、なりすましからの申請であることが発覚すれば、虚偽の申請は却下されることになります。
注意点としては、この申出の有効期限は3か月ということです。
3か月を過ぎても、犯人が捕まらない、不正な登記申請もない、ということであれば、再度申出をすることになります。

■虚偽の登記がされたら?

ここまでは「盗まれたけど、虚偽の名義変更はまだされていない」というケースについて話してきました。
では「盗まれて、さらに、虚偽の名義変更までされてしまった」というケースはどうなるのでしょうか?
結論から言うと、訴訟を起こして、虚偽の登記を抹消するしかない、ということになります。
ここまで行くケースはおそらく稀だとは思いますが、この訴訟を依頼するとしたら弁護士ということになります。

 

いかがでしたでしょうか?
今回は「権利書を盗まれたらどうなる?」というテーマで解説しました。

ポイントは2つです
1. 権利書と実印、印鑑カードを同じ場所に保管しない
2. 権利書を盗まれたら、警察・市役所・法務局に届出

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