Q 動画やパソコン上のファイルでどのようにデジタル遺言するのですか?
■法制審議会の中間試案では、動画やPDFで遺言
「遺言は書きたいけど、手の力が弱くなって字がうまく書けない。
かと言って公正証書遺言だと費用がかかるのが悩みの種。
どうしたらいいでしょうか?」
「高齢の両親に遺言を書いてほしいけど、できるだけ簡易な方法でないと嫌がりそうなんです」
司法書士として遺言業務の最前線で相談を受けていますと、このような悩みをよく聞きます。
そんな方のために、手書きで書かずに作れる「デジタル遺言」制度が検討されています。
そこで2025年7月、法制審議会から発表された中間試案を簡単に解説します。
デジタル遺言といっても、実は方法は1つではありません。
中間試案を見ますと、甲案、乙案、丙案と大きく分けて3つの方法が提案されています。
大枠をつかんでいただくために、最も特徴的な違いを説明します。
甲案:動画で遺言
乙案:PDFで遺言
丙案:紙にプリントアウトして遺言
まずざっくりとイメージはつかめたでしょうか?
ではそれぞれの案をもう少し細かく見ていきます
■甲案:動画で遺言
まず甲案の動画で遺言する方法です。
手順は次の通りです。
1.遺言をワードなどで作成
2.遺言者がそれを読み上げて、日付や間違いなく自分の遺言であると述べているところを動画で撮影
これが動画による遺言です。
ところで1つ気がかりなことがありますよね?
そう、偽造です。
簡単に遺言を作れるのはいいことだけど、誰かが勝手に自分に有利な遺言を作るようなことがあってはいけません。
この後説明する2つの案も含め、どのように偽造を防止するのでしょうか?
■偽造防止策は?
この動画による遺言では、2つの方法で偽造防止が提案されています
甲1案:証人2人が立ち合う
甲2案:遺言ワードファイルをPDF化し、電子署名する
証人はつけません。
むしろ誰もいない場所で撮影することになっています。
ところで電子署名とは何でしょうか?
■電子署名とは?
一言でいうとデジタル実印です。
まず普通の実印はわかりますね?市役所に登録した印鑑のことです。
重要な書類では、「間違いなく本人が押した印鑑ですよ、誰かが三文判で勝手に押したものではないですよ」ということを証明するために、この実印を押します
そしてこの印鑑が実印である、ということ示すために市役所で発行された印鑑証明書というのをくっつけるわけです。
この実印+印鑑証明書の役割を、デジタルでやってしまおう、というのが電子署名なんです。
一番典型的なのは、マイナンバーカードを使って電子署名するというものです
電子署名する時に、パスワードを入力しなければなりませんので、本人にしかできません。
これによって、偽造防止を図るわけです。
■乙案:PDFで遺言
次に乙案です。
手順は次の通りです。
1.遺言をワードなどで作成
2.そのファイルをPDF化し、電子署名
3.法務局で、遺言者がその遺言を読み上げ、ファイルを保管してもらう
「え?法務局まで行かなきゃいけないの?」
と思った方もいるかもしれませんが、ご安心ください
希望すればテレビ会議(ZOOMのようなもの)で保管申請も可能※、となっています。
このように法務局で口述し、保管することで、偽造や改ざんを防げるわけです
※ただし法務局が相当と認める場合のみ
■丙案:紙に印刷して遺言
最後に丙案。
実は丙案は、基本的に乙案と同じです。
1.遺言をワードなどで作成
2.電子署名の代わりに遺言を紙にプリントアウトして、その紙に自筆で署名します
ここが乙案との違いです。
乙案はそのワードファイルをPDF化し、電子署名しますが、丙案は電子署名しません
3.法務局で、遺言者がその遺言を読み上げ、遺言の書面を保管してもらう
最後は同じです。
このような流れになります。
「いやいや、手で書くのが辛い人のためのデジタル遺言なのに、署名させるなら意味ないんじゃないの?」
「紙にプリントアウトするならデジタル遺言といえないんじゃないの?」
と思う方もいるかもしれません。
ですが私はそうは思わないです。
私の現場の感覚として、「長い文章を全部手で書くのはつらいけど、署名くらいなら何とかできるよ」
とか、「手書きはつらいけど、キーボードを打って文書ファイルを作るくらいならできるよ」という方は結構います
また電子署名と言われて「ああ、あれをああしてこうすればいいのね」とイメージできる方、多いでしょうか?
ハンコ文化をなくしていこう、と言われて久しいですが、まだまだ少ないように思えます
なのでPDF+電子署名の代替手段として、印刷+署名は、決して悪くない方法ではないでしょうか
■現役世代もデジタル遺言を
デジタル遺言の中間試案を見てまいりました
最初に私は、「手で遺言を書くのが辛い人のためのデジタル遺言」と言ったのですが、実はもう少し前向きな利用方法もあると思っています
それは現役世代の方もどんどん遺言して欲しい、ということです。
いつも言っていますが、遺言は高齢者だけのものではありません。
結婚したら生命保険に入るのと同じ感覚で、現役世代にも遺言すべきだ、と考えています。
詳しくは別の動画で解説していますが、次のような場合、特に相続手続が面倒になってしまいます。
→義父母や義理の兄弟姉妹との遺産分割となる
→家庭裁判所で特別代理人の選任が必要になる
手書きよりハードルの低いデジタル遺言は、非常に有効な手段となりえます