Q 夫が亡くなりましたが、子はまだ幼いので、全ての遺産を妻である私名義にするにはどうしたらいいですか?
■未成年の子とともに遺産分割するには「特別代理人」が必要
Aさんという男性が亡くなり、その相続人が妻B、幼い未成年の子Cとします。
このようなケースだと、私の経験上、妻が全ての遺産を相続したい、という希望が多いです。
希望というか、「当然でしょ」とすら思っている人もいます。
子どもがまだ幼ければ、不動産やまとまったお金の管理はできませんからね。
ところが、法律や裁判所は、「妻Bが全部もらって当然」とは考えないんです。
順を追って説明します。
まず夫Aが遺言を書かずに亡くなった場合、夫A名義の不動産を妻Bの名義にしたり、預貯金の払戻を受けようとすると、前提として遺産分割が必要です。
※2019年7月1日以降に発生した相続では、一部の預金を遺産分割前に引き出せます
が、一つここで問題があるんです。
未成年の子どもがいる場合、遺産分割の前提として、家庭裁判所に次のような書類の提出が必要、ということなんです。
1.特別代理人選任の申立
2.どのような遺産分割をする予定なのか、という案の提示
3.その分け方でも子Cにとって不利益がないことの説明
「特別代理人って何?お母さんが子どもの代わりに遺産分割すればいいんじゃないの?」と思ったあなた。
確かに一般論として、未成年者がこのような法律行為をする場合、親権者、つまり母親が法定代理人として動くのが原則です。
ですがこのケースでは、母親は子どもの代理人になれないんです。
なぜでしょう?
■「幼い子と言えど権利はある」が法律や家裁の考え
遺産は、相続人の生活の保障、という側面を持ちます。
この点、妻Bが子Cの(法定)代理人として遺産分割すると、
「本来、子Cの生活費等に充てられるべき遺産が妻Bのためだけに使われ、子Cに不利益となるおそれ」があるからです。
このことを、「利益相反」(りえきそうはん)といいます。
この言葉は覚えなくてもいいんですが、「特別代理人をつけるために家裁への申立が必要」ということは覚えてください。
誤解のないように言いますが、「妻B一人に全ての遺産を相続させることは『できない』」と断言しているのではありません。
「そうするには、それなりの理由説明が必要」ということなんです。
「子どもといえども権利はある」
というのが法律や裁判所の考え方ですから、
「妻B一人が財産を全部持ったとしても、子どものためにきちんとそれを管理したり、使ったりできるので、大丈夫ですよ」
ということを、”裁判官が納得できるレベルで”説明する必要がある、ということです。
なお提出した遺産分割案が認められるか否かは、家裁や子どもの年齢、状況等、総合的に勘案してケースバイケースで判断されます。
私は過去、こうした案件を2件経験していますが、いずれも妻への全ての遺産分割が認められています。
■特別代理人って誰がなるの?
特別代理人を選任するための申立書に、候補者を書く欄があります。
通常は、ここに利害関係のない親族を候補者として書いて申立します。
私が過去に経験した2件の事例では、それぞれ妻の兄弟、妻の父を候補者とし、認められました。
■こうした事態を避けるため生前にできること
「何て面倒なことをしなければならないの?こんな手続を避ける方法はないの?」
生前であれば、回避方法はあります。
それは遺言を書くことです。
「まだ遺言をするような年齢じゃない」?
未成年の子どもがいる夫婦といえば、一般的に20~40代でしょうか?
でも、司法書士としては、本当に声を大にして言いたいのです。
「遺言は高齢者がするものという偏見は、捨ててください!」と。
遺言は、相続手続を簡素化し、スムーズにするためのものです。
なので、若い方でも、未成年の子がいるケースでは、遺言を作る意味は十分あるのです。
上記のような面倒な手続が、遺言一枚書くだけで回避できるのに、なぜやらないんですか?とすら思っています。