Q 相続人の中に行方不明者がいます。彼はいないものとして遺産分割を進めていいですか?
■「いないもの」として進めることは✕
たとえ行方不明者でも、「いないもの」として進めることはできません。
なぜなら遺産分割は、相続人全員が同意しないと成立しないからです。
中には、親族に何かしらの不義理を働いて行方不明になる人もいますので、「なぜあんな奴がいないという理由で遺産分割を進められないのだ」と憤る方ももしかしたらいるかも知れません。
ですが、法律の規定である以上、どうにもならないでしょう。
■まずは戸籍をたどる
たとえ長年、音信不通で、住所を知らなくても、まずは戸籍→戸籍の附票をたどっていきましょう。
戸籍の附票とは、「この戸籍の人は、今ここに住民票を置いていますよ」という証明書です。
これによって住所が判明するケースは意外にあります。
その場合は、そこに直接尋ねるか、手紙を送るかすればいいわけです。
もちろん何かしらの理由があって行方不明になっているので、「住民票上の住所」がわかっても、実際にはそこにいない、ということもあります。
本当の意味の行方不明者です。
失踪者と言った方がわかりやすいかもしれません。
この場合はとてもややこしい手続になります。
方法は2つです。
■方法1「不在者財産管理人」を選任
まず1つ目。
「不在者財産管理人」の選任です。
一般的な手順は次の通りです。
1.相続人から家庭裁判所に、不在者財産管理人の選任を申立
2.管理人が家庭裁判所に遺産分割案を提出し、許可をもらう
3.案通りに分割
ただしこの場合、行方不明者には最低限、法定相続分相当額は分割しなければならないほか、申立にも30~50万円の予納金が必要になります。
■方法2「失踪宣告」
2つ目は「失踪宣告」です。
これは失踪者を「最後に生存が確認できた時点から7年後※1に死亡したことにする」(死亡擬制)ものです。
不在者財産管理人のように法定相続分相当額の確保や、予納金は不要ですが、法律上「死亡したことにする」ものですので、あまり安易に申立するような性質のものではありません※2。
※1 船の沈没等の場合は危難が去ってから1年
※2 万が一、失踪者の生存が確認された場合は、失踪宣告の取消が可能です。
行方不明者の戸籍・戸籍の附票取得、どちらの方法が適切なのか等、専門的な判断が必要となりますので、まずは司法書士にご相談されることをお勧めします。
■行方不明者が相続人となる見込みの方は遺言等を
上記のように、相続人に行方不明者がいる場合の相続は、手続的にハードルが高くなり、費用もかかります。
現時点で、自分が亡くなった場合の相続人に該当者がいる方は、こうした不便を家族にかけることのないよう、遺言、家族信託、生前贈与等でこれを回避することをお勧めします。
■改正法では簡易な方法による共有解消が可能に
ここまでは現行法上で可能な方法です。
ですが2023年頃施行の改正民法では、次の2つの制度が創設され、共有解消や売却がより円滑に進められるようになります。
1.所在等不明者の持分取得
裁判所の許可を得て、共有者の一人が、所在等不明の共有者の持分を買い取ることができます
(民法262条の2)
2.所在等不明者の持分譲渡権限付与
裁判所の許可を得て、共有者の一人が、所在等不明の共有者の持分を売却する権限を付与されます
(民法262条の3)
これについてはこちらのページで解説します。