Q 私の自宅不動産を妻が相続すると、子どもが不平を言いそうです。生前の対策はありますか?
■自宅不動産が財産の半分以上を占める方は要相続対策
「自分が亡くなった後も、妻は住み慣れたこの家に住み続けたいと希望している。
しかし子どもには、法定相続分を下回る預貯金しかもらえず、不平を言い出しそう。
それだと家を売って、売却代金を分けるしかないのか?」
実際、よくある相談です。
自宅不動産が財産の半分以上を占める方は、何らかの対策をしておいた方が安全と言えるでしょう。
この問題に対する対策は、いくつかあります。
このページでは、3の生前贈与による方法を説明します。
1.遺言を書いて子どもの遺留分を確保する→こちら
2.遺言で配偶者居住権を設定する→こちら
3.生前贈与+居住用不動産の配偶者控除利用→このページで説明
■改正により夫婦間の生前贈与がしやすくなりました
2019年7月1日施行の民法改正により、相続対策としての夫婦間の居住用不動産の生前贈与がしやすくなりました。
ここでは次のような家族を例に、対策を説明します。
事例
・家族構成は夫A(不動産所有者)、妻B、長男C
・AB夫婦は婚姻期間20年以上
・夫Aの自宅不動産の価値は1000万円、預貯金は600万円
手順
1.夫Aから妻Bに自宅不動産を生前贈与し、その旨を登記する
2.税務署で配偶者控除の申告をする(贈与税がかからないようにするため)
3.夫A死亡後は、BとCで預貯金600万円について遺産分割する
これを聞いて「ん?改正で何が変わったの?」と思う方もいらっしゃるかも知れません。
実は改正前は、1の贈与を「遺産の前渡し」(特別受益)と考え、3の遺産分割の時、それを含めて法定相続分を計算しなさい、となっていたのです(これを遺産の「持戻し」と言います。民法903条1項)。
つまり、不動産1000万円+預貯金600万円=1600万円を遺産としますので、法定相続分はBCそれぞれ2分の1の800万円となります。
この状況で妻Bが不動産を相続すると、長男Cが預貯金全てを相続しても、法定相続分より200万円不足してしまいます。
これだと不足分を妻Bの貯金からもらわないと遺産分割案に応じない、とか、売ってお金を分けてくれ、という話になってしまうのです。
ところが2019年7月1日施行の改正により、婚姻20年以上の夫婦間の贈与は、遺産の前渡しではない、というのが原則となりました(民法903条4項)。
なので、素直に残った預貯金600万円をBCで遺産分割する、ということになるのです。
■デメリットや注意点も
とはいえ、このやり方にもデメリットや注意点があります。
1.必ずしも夫A→妻Bの順で亡くなるとは限らない
予想に反して妻B→夫Aの順で亡くなった場合、上記のような問題は起こりえます。
2.妻Bが認知症になると、売却したいと思っても売れない
これに対しては、家族信託や任意後見で対策する方法が考えらます。
3.夫Aが亡くなる前に離婚することもあり得る
ですので、多角的に考えた上で、方向性を決める必要があります。
必ず司法書士に相談してから進めることをお勧めします。