Q 遺言により私が全ての遺産を相続することになりましたが、遺留分を請求されたらどうしたらいいのでしょうか?
■改正により遺留分の請求は「お金で払う」が原則に
このページは特に断りのない限り、2019年7月1日以降に亡くなった方が、遺言を残していたケースでの説明です。
例えば次のような事例を考えます。
・夫A、妻B、長男Cの家族で、Aが死亡
・亡夫Aが「妻Bに全ての遺産を相続させる」と遺言
・Aの遺産は、自宅不動産1000万円+預貯金600万円=1600万円
この場合、長男Cが侵害された遺留分は、法定相続分2分の1のさらに2分の1、つまり4分の1です(民法1042条1項2号・民法900条1号)。
金額に換算すると400万円。
したがってもし長男Cが遺留分を請求した場合、妻Bは400万円を払えば終わりです(民法1046条1項)。
自宅不動産と預貯金の残り200万円は、妻Bのものとなります。
なお2019年7月1日の改正施行前は、遺留分を行使すると、不動産も預貯金もB:C=3:1の共有となるのを原則とし、例外として上記のような価額弁償が認められるという形を取っていました。
同日以前に発生した遺留分侵害においては、現在もこのルールが適用となります。
■すぐに払えなければ弁護士にご相談を
上記のケースでは、預貯金が十分にあるケースなので、話が早いですね。
では同じケースで、預貯金が200万円しかなかった場合はどうなるでしょうか?
遺産額1200万円に対して、長男Cが侵害された遺留分はその4分の1の300万円です。
妻Bは、遺産の預貯金200万円を全て払っても100万円払えません。
B自身のポケットマネーから残り100万円が払えなければ、どうしたらいいのでしょう?
まずは弁護士に相談しましょう。
長男Cとしても、いくら頑張ったところで、取れないところからは取れないのです。
自宅不動産を売ってまかなうにしても、時間やコストがかかります。
ケースバイケースですが、譲歩の余地が見いだせる可能性もあるので、自分一人で判断せず、必ず弁護士に相談しましょう。
※なお家庭裁判所の許与により、遺留分の支払期限を延ばすことも可能になりました(民法1047条5項)。
これらの行使も含めて、弁護士に相談してください。
■不動産の名義変更は急いで!
一方、遺留分を侵害された長男Cとしては、どのような手を打ってくることが考えられるでしょうか?
例えばCが借金を抱えており、「少しでも早く現金が欲しい」と目先の利益にとらわれている場合、下記のような手段が考えらます。
1.Bが遺言に基づく相続登記をする前に、Bに無断で不動産にBC各2分の1の法定相続分による相続登記をする
2.Cの持分を、持分を買い取ってくれる業者に売る
参考ページ
登記は「早い者勝ち」なので、妻Bは1~2の行為を「無効だ」とは原則として言えません。
したがって、遺言を見つけたら、相続登記(名義変更)はすぐに行ってください。
■遺留分に配慮した遺言を
以上が、自分以外の遺留分を侵害する遺言を見つけた際の対処法です。
ですが、このようなトラブルがそもそも起きないに越したことはありません。
遺言を作る時は、自分の気持ちだけで書くのではなく、遺留分に配慮することが望ましいです。
何らかの事情で特定の相続人の遺留分を侵害せざるを得ない時は、そのようにする理由を話して納得してもらうなどの工夫が必要です。
そのためにも、司法書士にアドバイスをもらいながら遺言作成することをお勧めします。