Q 配偶者短期居住権が認められたので、遺言等の相続対策は不要ですよね?
■”配偶者居住権”と混同しないで
まず配偶者短期居住権の説明をする前に、1点、整理しなければならないことがあります。
2020年4月1日施行の民法の相続分野改正では、次の2つの制度が設けられました。
名称が似ていますので、混同なさらないようにお願いします。
ここで説明するのは、下記の2の方です。
1.配偶者居住権(民法1028条1項)
→遺言や遺産分割により設定する権利
2.配偶者短期居住権(民法1037条1項)
→建物を持つ人が亡くなった時、配偶者に”自動的に”発生する権利
※このページで説明
■遺産分割成立日から6ヶ月間は居住権あり
いずれも建物所有者が亡くなった時点で、配偶者がその建物に住んでいれば、引き続き住むことが可能となる権利、という点では同じです。
以下、自宅建物の所有者を夫A、居住権の設定を考えている配偶者を妻B、その他の相続人を長男Cとして説明をします。
夫Aが亡くなり、以前からA名義の自宅に住み慣れていた妻Bとしては、このまま住みたいと考えています。
ところが長男Cは「さっさと家を売って、母は施設に入った方がいいだろう」と考え、BCの間で家をどちらに名義にすべきか、遺産分割がまとまらない状態が続いています。
この場合、妻Bにとっては、次のようなことが不安になると思います。
不安1
長男Cには法定相続分2分の1がある。遺産分割がまとまらない間、この家に住んでいることに対して、家賃相場額の半分(例えば近隣同種の貸家の家賃相場が10万円なら5万円)を請求されるのではないか?
不安2
上記1を払えない場合、長男Cから退去を求められるのではないか?
この不安に対して、今回の改正により、次の点が明記されました。
改正により明記された点
・遺産分割により、家が長男Cのものになったとしても、遺産分割日から6ヶ月間は妻Bが無償で住んでよい(民法1037条1項1号)
逆に言えば、遺産分割がまとまらなければ、ずっと住んでいて良いのです。
■あくまでも「最悪のケースだけ」を防ぐもの
「よかった。じゃあ妻のために遺言等を書く必要はないな」
そう思うかも知れませんが、それは「話が飛躍しすぎ」だと私は思います。
確かに配偶者短期居住権により、長男Cが妻Bに家賃相場の半額を請求するなどして、立ち退きするよう仕向けるような「最悪のケース」は避けられます。
しかし逆に言えば、それだけです。
以下のような根本的な問題は回避できていません。
・BC母子の間でいつまでも遺産分割がまとまらない
・それによって家を売りたくなっても売れない
・その間に妻Bが認知症になって遺産分割自体ができなくなる、など
なので、遺言等の相続対策して、そもそもこのような問題を回避し、妻Bに安心してもらうに越したことはないのです。
■特に子のいない夫婦は要注意
上記の例では、親子なので、あまりピンと来ないかもしれませんが、子のいないご夫婦は特に注意が必要です。
例えば子のいない夫A妻Bに、Aの父母DEが存命だとします。
もし夫Aが亡くなると、相続人は「嫁」のBと「舅・姑」のDEですが、血の繋がらないこの3人で、遺産分割というデリケートな話をするのは、なかなかのストレスではないでしょうか?
そう考えると、遺言等の相続対策により、「遺産分割をしなくていい状態にしておく」のが、夫Aとしての妻Bへの思いやりではないでしょうか?
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